2024年12月22日( 日 )

【技術の先端】自動運転技術を支えるセンサーシステム(3)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

九州工業大学 榎田修一 教授

 現在注目されている技術の1つに「自動車の自動運転」がある。一口に自動運転といっても、当然ながら、そこにはさまざまな技術が用いられている。今回は自動運転時に周囲の状況を「認知」する技術についての研究を行っている、九州工業大学の榎田修一教授にお話を聞いた。

「認知」は自動運転の入口

 榎田 人間が自動車を運転するとき、「認知(周囲の状況・環境を認識する)」、「判断(どうすれば環境を上手く切り抜けられるか)」、「操作(判断に沿ったかたちで実際にクルマを動かす)」という作業を繰り返していると考えられています。
 これを機械に置き換えたとしても、やはりまず「認知」をするためのモジュールが必要で、次に環境に応じて適切に「判断」するモジュール、そして実際に「操作」を行うモジュールという構成になります。

 ――榎田先生の専門は「認知」の部分なんですね。

 榎田 そのとおりです。現在、「認知」ではカメラやLIDAR、ミリ波(直進性の高い電波。大量のデータを送信できる)を使って、自分が走っている走行環境を認識しています。LIDARなら、光を使って反射して戻ってくる時間を見て距離をリアルタイムで測っています。

 「判断」を担当するモジュールが、いわゆる「人工知能」なんですが、これは模範運転行動や、いろいろな人たちが運転してきた経験、道路地図をベースに運転を支援する知識のかたまりです。「あなたが走っている道路はこういう場所ですよ」という情報から、「これからカーブに差しかかるから減速しないと」「これから見通しの悪い交差点に進むから減速する必要がある」などと「判断」して、周囲の環境から「この道路はこういう車線でこういう経路で進んだほうがいい」という経路計画を立てます。

 このときに、道路環境を見て、「本当は40kmで行きたいけれど、目の前に30kmで走っているバイクがいるから減速する必要がある」「先行車両がブレーキを踏んで車間距離が詰まってきたので調整する」など、地図データから読み取れる情報だけではうまく判断できないところが出てきます。判断モジュールはアクセルやブレーキに対して「行きましょう」と指示しているけれど、認知モジュール側で道路環境を細かく認知し、さまざまな情報を判断モジュールにさらに高度な判断を促す必要があります。環境にあわせて一般的な経路計画を修正し、「車間距離を更に広げましょう」や「白線を見てレーンの真ん中にいるようにしましょう」などの、より細かい判断を実現するためには、さらに高機能な認知モジュールが必要となります。例えば、地図上のどこを走っているかはGPSで判断できますけれど、走行レーンのなかの数十㎝レベルでどこにいるかまでは計測できません。このように、さまざまな面で、我々が担当する車載カメラやLIDARを使った認知モジュールの実現にかけられる期待は大きいと思います。

 ――「認知」はどうやって行っているのでしょうか? 

 榎田 人間は、写真をパッと見た瞬間に、人間や飛行機、雨、夕方など、見たものを特定のカテゴリーに分けることができますが、これを「パターン認識」といいます。入力された高次のパターンを任意に抽象化してカテゴリーに対応付けられる能力で、これが「認知」の能力です。

 与えられたパターン、例えば目から飛び込んでくる映像情報そのものから、より抽象的なカテゴリー(危ない状況、安全な状況など)へと対応付ける瞬間が「認知」している瞬間です。これを計算機で実現しようとする場合に、画像のような高次のパターンを適切に数値化する必要があり、これを「特徴記述」といいます。そして、数値を元にパターン化する。

 具体的にいうと、空の画像のなかから「オレンジ色の画素」は何パーセントあるかという数値を取り出します。そして、オレンジ色の割合が何パーセントぐらいあれば、それは夕方の写真である確率が高いといった感じですね。

 認知して「特徴を記述して変換する」という過程を経て、パターン、つまり写真から夕方であるかどうかを推定する。この過程が人工知能の1つとしてみなされるわけです。

 こういうかたちで、さまざまな問題に対して計算機が自動でカテゴリーに対応付けする機能を実現することが我々の研究です。画像がうまくカテゴリー分けできないと「判断」ができないので、入り口をしっかり作っているところですね。

 実際の例だと、車線の位置、道路標識、路面上に描いてある速度制限、そして横断歩道を渡ろうとする人、などをパターン認識で認知しています。また、道路環境だけでなく、レベル3で必要になるドライバーのモニタリングにも必要な技術ですね。車内カメラでドライバーを見て、「ドライバーが正面を向いていないから、いま運転を戻しても対応できないはずだ」という感じで判断されます。

 ――自動車側の技術だけでなく、標識にチップを埋め込む、車線の塗料に認識しやすい情報そのものを付加するなど、道路側にも工夫すれば認知能力が上がりそうですね。

 榎田 もちろん、そういう風にインフラ側を整備するという研究開発も計画されています。レベル4の話に出た「環境を限定した自動運転」というのはまさにそれです。アスファルトをはがして、路面に直接チップを埋め込んだ場所を作ってしまうという手もあります。先ほどレベル4のほうが早期での実現可能性が高いといったのは、そういう部分も含めてです。東京オリンピック前に、会場近くのあちこちで大きな道路工事が始まるかもしれないですね。

(つづく)
【取材・文:犬童 範亮】

<プロフィール>
榎田 修一(えのきだ・しゅういち)
1974年、福岡県太宰府市生まれ。九州工業大学 大学院情報工学研究院 知能情報工学研究系 教授。研究分野はパターン認識、画像処理、画像解析。

 
(2)
(4)

関連キーワード

関連記事