2024年11月23日( 土 )

シェア高める杭打ち業界の二刀流、強みは工法問わない総合提案力(中)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

ジャパンパイル(株)(アジアパイルホールディングス(株))

ジャパンパイルが首位に

 業界でのジャパンパイル(株)の立ち位置を見てみよう。売上規模を示す前に説明しておくが、杭工事といっても、工法によって大別される。一般的には杭工事は一括りにされるが、業界では「場所打ち工法」と「既製杭工法」があり、別物として扱われる。場所打ちは現場で杭の長さを自由に延長できる工法、既製杭は決められた長さの杭を打つ工法だ。偽装問題で、初めて工法に焦点が当てられ、区別を知った方も多いはずだ。問題となったのは、既製杭だった。

 既製杭大手2社の既往の業績を比較してみよう。いずれも連結での数字になるが、増収基調は共通している。三谷セキサンは増減を繰り返しているが、増収続きのジャパンパイル(アジアパイルHD)が伸び率では勝っている。2016年3月期には700億円を突破。売上高では、ジャパンパイルが首位の座を射止めた格好だ。利益率は三谷セキサンに軍配が上がっているが、これほどまでにシェアを伸ばすジャパンパイルにどんな強みがあるのか。
 杭打ち大手の売上高を見ていただくとわかるように、企業によって扱う工法が異なる。「場所打ちなら、場所打ち専門」という専門分野があるのだ。しかし、両項目に名前が挙がっているように、ジャパンパイルは両工法を扱っている。つまりは、杭のことなら何でもお任せ。杭のデパートと呼ばれる所以である。これが同社の強みであり、競争激化する業界にあって、シェアを伸ばし続けている理由でもある。なぜジャパンパイル1社だけが、二刀流を実現しているのか。それには、企業の成り立ちが関係している。

 同社の成り立ちを業界関係者に聞いたところ、最初に登場したのが「(株)武智工務所」だった。武智工務所は合併前のジオトップの前身で、大阪を中心に40年ほど活動していた。コンクリートパイルの製造、施工を手がけ、その後ジオトップへ名前を変え、大同コンクリート工業、ヨーコンと合併したのが05年。いずれもパイルを製造しながら、施工も行っていた。ヨーコンは場所打ち杭工法を得意とし、他2社は既製杭工法。合併により、両工法を取り扱える土壌が完成した。ジオトップは大阪、ヨーコンは名古屋、大同コンクリート工業は静岡を出生地としており、シェア拡大にもつながった。複数社との業務提携を繰り返し販売網は拡大。全国展開したものの、自社だけでの営業では賄えなくなり、販売代理店は全国各地に広がった。

業界的には淘汰の歴史

 3社合併による、事業規模の拡大は販売強化に優位に働いた。しかし、自社の努力だけで現在のポジションを勝ち得たというわけでもないようだ。かつて杭打ち業者の数自体は今よりもずっと多かった。それがバブル崩壊、リーマン・ショック、政権交代を経て淘汰され、体力のある企業が残っている状況だ。100%純粋な成長というよりは、淘汰された分を吸収して大きくなった部分も大いにある。

業界関係者が語る、ジャパンパイルの強み

 業歴40年を数えるベテランは、次のようにジャパンパイルの強みを説明した。
 「両方の杭を扱えると、杭の設計提案が柔軟にできる。片方しかわからなければ、提案は十分にできない。さらに両方扱えるとコスト比較も容易。場所打ちならいくら、既製杭ならいくらというように、両方できるのは唯一ジャパンパイルだけ。工法が2つになれば、杭の選択肢(種類)は格段に増える。ゼネコンにしても、比較する場合は通常なら場所打ち杭、既製杭と2社を呼んで協議しないといけない。当然そこには競争が生まれ、検討時間もかかる。それを1社でどちらの工法でも提案できれば、ゼネコンからしても楽。コスト比較は非常に便利。双方に精通しているから変な提案はしない。総じて営業提案力は高い。決して金額がとてつもなく安いというわけでもない」。

 業界関係者が語るように、二刀流による営業提案力が同社の強みのようだ。価格のみでの勝負にならないことが、利益確保につながっている。しかし、ここで素朴な疑問が生じる。「他社も同じように、二刀流にすればいいのに」――他社も複数の工法を扱えばいいのに、なぜしないのか。さらに別の関係者に聞いた。「同じ杭業界でも、分野は大きく異なるので簡単に進出できない。ジャパンパイルは複数の会社が合併したことで、それまでのノウハウを生かして両方扱えるが、他社には真似できない。業界的なしがらみも当然ある。同業他社のマーケットに食い込むわけだから、それなりの覚悟が必要。最終的には経営者の判断になるが、現状では追随するものはいない」。

 現状では二刀流ジャパンパイルの1人勝ちのようだ。素人が思っているほど、二刀流は甘くはない。場所打ちと既製杭の工法の違いはそれほど大きいようだ。

※クリックで拡大

(つづく)

【東城 洋平】

<COMPANY INFORMATION>
アジアパイルホールディングス(株)
代 表:黒瀬 晃
所在地:東京都中央区日本橋浜町2-1-1
設 立:2015年10月(旧・ジャパンパイル(株)は2005年4月設立)
資本金:10億円
売上高:(16/3連結)720億7,800万円

 
(前)
(後)

関連記事