2024年11月27日( 水 )

追い詰められた自営業者(後)

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日韓ビジネスコンサルタント 劉明鎬(在日経歴20年)

 韓国に自営業者が多いのには、理由がある。
 韓国では一度会社を辞めてしまうと、再就職するのはなかなか難しいという現状がある。もちろん専門的な技術やスキルを身につけている人は例外だが、一般的には中途採用するケースはそれほど多くない。特に、アジア通貨危機を経験した韓国企業は、企業経営にとても慎重になっている。利益が出ても投資には慎重だし、固定費の増加には特に神経を尖らせている。
 そのため、アジア通貨危機で会社を追い出されることになった多くの人たちは、会社からもらった退職金をベースに自営業を始めた人が多い。アジア通貨危機という社会の変革は、韓国に自営業者を大量に生み出すきっかけをつくった。それに最近では、退職した人だけではなく、就職ができなかった若い人までも自営業に参入しているのが韓国の現状である。

 だが、自営業者は果たして競争力を持っているだろうか。
 この問題は韓国に限った話ではないが、大手企業がサービス業にどんどん進出することによって、自営業者は窮地に追い込まれている。スーパーを例に挙げると、韓国では大型スーパーが登場し、既存の小さな店や既存の市場はだんだんと大型スーパーに顧客を奪われている。スマートフォン(スマホ)の登場がデジタルカメラや携帯音楽プレイヤー、電子辞書などのビジネスを破壊したように、財閥系の大型スーパーの登場によって自営業者の廃業が増えている。

 2015年の統計によると、韓国では新規に事業を開業する人が107万人で、廃業する人は74万人というデータがある。3人が新たに事業を起こす一方で、2人が事業を畳んでいる厳しい現実が待っているのである。

 今、韓国では造船や海運、建設などの分野で構造調整が進められている。だが、造船が好景気に沸いていた時期とは打って変わって、良いニュースはあまり聞こえてこない。
 韓国の企業では、問題が発生するとその原因を分析して対策を立てることよりも、まず先に費用のカットに着手することが多い。そのため大量解雇はもちろん、下請け業者や地域産業まで巻き込んで寒波が吹き荒れている。そして職を失った人たちは、生計を立てるためにまた何かを始めることになる。しかし、事業というのはそんな簡単なものではない。前述したように3名が開業し、そのうち2名は廃業に追い込まれる。しかも残りの1名も利益を出しているわけではなく、実はただ踏ん張っているだけかもしれない。

 また最近は、家計負債の時限爆弾として、自営業者の負債が取り上げられることも多い。
 韓国の家計負債は昨年末で1,300兆ウォンを上回るようになり、その深刻さについて外国などでは警鐘を鳴らしている。特に、そのなかの520兆ウォンは実は自営業者の負債であり、これが最も深刻な要因であるという指摘が出ている。たとえば現在のように世界経済が低迷しているなかで、仮にアメリカが金利を1%上げることになれば、その影響で50万の自営業者が廃業に追い込まれるという統計があり、注目を集めている。
 韓国の大手国内信用格付け機関である韓国信用評価によると、自営業者の貸し出し総額は185兆5,000億ウォンだという。しかし、これはあくまでも表向きの数字であって、事業がうまく行かなくなった自営業者が、個人の資産を担保に金融機関から個人的な借入として借りた金額まで合計すると、520兆ウォンに達するとのことだ。懸念されているのは自営業者の負債の増加率が4.4%であり家計負債の増加率より早いことと、実際の自営業者の負債総額である520兆ウォンの36.2%は、金利の高い第2金融機関からの借入であることのようだ。

 韓国政府ではこのような問題を解決するため、さまざまな対策を講じているが、まだ効果のある対策を打ち出せていないのが現状である。景気が低迷するなか、自営業者は追い詰められており、なかなか突破口は見つからないようだ。

(了)

 
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