2024年12月23日( 月 )

加計学園問題という「日本の美しき縁故主義」(4)

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SNSI・副島国家戦略研究所 中田安彦

 いや、結果的に理事長の息子が獣医学部の新設で利益を得ることになっても、その決定が公明正大に、加計学園のプランが他に比べて優れている、ということが認められて決まったのだったらいいのだ。恣意的に1校しか申し込めないように予め図ったことがやはり問題なのである。

 不思議なことに、メディアは森友学園問題のときに籠池泰典理事長を追いかけまわしたように、この問題では加計理事長のコメントを取ろうとしない。雲隠れして所在がわからないのかもしれないが、加計氏側もメディアの前に姿を見せない。実に不可解である。息子が獣医師だったという話や、安倍首相との関係、獣医学部の決定に全くやましいところがないなら、加計氏は記者会見で記者団の疑問に正々堂々と答えるべきではないか。まあ、6月18日の会期末で国会が閉じて、安倍首相が逃げ切ったら、突如としてメディアの前に姿を現すのかも知れないが。

 総理の長年の友人が経営する学校法人が、総理が議長を務める国家戦略特区諮問会議によって、特区指定プロジェクトして指定を受け、市有地を無償で提供を受け、建設費用の半分も市からの負担を受ける、そして新設学部となるのは、その総理の友人の次男が研究分野とする獣医学部である。これぞ、「美しい国の、美しき縁故主義」であると言わずして何になるだろうか?そう言われるのが嫌なら加計氏はきちんと記者会見で説明をするべきだ。

 加計氏との友人関係が、国家戦略特区のプロジェクト選定に大きく影響しているのだとすれば、これは前代未聞の大疑獄事件となる。韓国の朴槿恵政権の利益供与事件に匹敵するものになるだろう。それだけは安倍首相は認める訳にはいかない。だから国会でこの問題を追求されると子どものようなみっともない姿で安倍首相は反論したり、野次を飛ばしたりするのだろう。

 一見、安倍首相は加計氏から利益を受け取っていないように見えるが、雑誌で報道されていることが事実ならば、安倍首相は加計氏から長年「パトロン」として世話になっているから、過去に十分な利益を受け取っているともいえる。その「お返し」を、この獣医学部の認可と言うかたちで返すとなれば、それはやはりどの角度から見ても「利益供与」というしかない。

 その友人への「お返し」を実現する仕掛けとして利用されたのが、「国家戦略特区」という制度ということになる。制度を使っているので、そこには違法性がない、というのが実に巧みである。ここでは利益供与を図ることがリーダーシップの話にすり替わってしまうのだ。

 単純な全国一律の規制緩和と違って、国家戦略特区というのは、何らかの基準に基づいて規制を緩和する地域を指定する。だから、そのような制度は許認可権を持つ側に簡単に悪用されてしまう。国家戦略特区制度には根本的な問題がある。

 安倍首相は、森友学園問題を国会で追求された時に、「私や妻が関係していたということになれば、これはもうまさに総理大臣も国会議員も辞める」と啖呵を切っていたが、加計問題でも、「もし働きかけて決めているのならわたし責任をとりますよ、当たり前じゃないですか」と国会の場で語気を荒げている。この件では安倍総理その人が「当事者」なのだから、いくら本人が「働きかけられたことがない」と言ってもそれはなんの関与を否定する証拠にならない。きっちりと関係者の証人喚問で白黒をつけるべきだ。

 報道では、首相補佐官である和泉洋人氏が、前川前文部科学事務次官と首相官邸で複数回面会し、「総理は自分の口から言えないから、私が代わって言う」などと獣医学部新設を早く認めるように圧力をかけていたことも明らかになっている。ここまで露骨に証拠があがっているのに、安倍首相、菅官房長官、松野文部科学大臣らは「知らぬ存ぜぬ」で通している。

 徹底的に国民はバカにされている。そこそこ株価が上がっており、失業率が低いのでどんな乱暴なことをやっても、国民は安倍政権を見放さないと甘く見られている。だが、安倍首相の代わりなど、石破、岸田などいくらでもいる。やはり安倍政権は長すぎた。権力の腐敗を防ぐためにやはり総理大臣は最長で4年を限度にするルールが必要かもしれない。

 すべての国家戦略特区のプロジェクトに問題がある、とは言わない。だが、安倍首相が新しい獣医学部の設置を推進した理由に限定すれば、それが規制緩和の推進ではなく、友人への利益供与であったことは客観的な状況証拠からすでに明らかだ。これでは「国家戦略」の名前が泣く。国家戦略特区をライフサイエンスの先端分野で実現するというのであれば、例えば、アメリカ、中国、あるいはインドの有名大学のサテライト研究所を誘致するとかそういうスケールの大きい話がほしい。安倍政権の日本はどこまでも内向きである。ずいぶんと「みみっちい国」になってしまったものだ。

(了)

<プロフィール>
nakata中田 安彦(なかた・やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。

 
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