2024年12月22日( 日 )

「ロシア・ゲート疑惑」を8割がた乗り切ったトランプ大統領(2)

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SNSI・副島国家戦略研究所 中田 安彦

 第1幕がマイケル・フリン国家安全保障担当補佐官の辞任で切って落とされたが、その序幕として大統領選挙のときの民主党本部へのハッキング疑惑がある。この疑惑にロシアが関与した疑いが流され、トランプがロシアに対して「ヒラリー・クリントンの不正を示すメールをハッキングして公開してくれ」と記者会見の席で言い放ったことが引き起こした騒動である。

 そして、第2幕では、5月9日のコミーの突然の解任に始まり、その後の米紙への2月14日をあわせて複数回あったとされるホワイトハウス執務室での会話を記録した「コミー・メモ」の流出、それからロシア大使との会談でコミー解任についてあけすけに語ったり、イスラエルから米情報機が得た「機密情報」をべらべらとロシア大使に喋ったりしてしまうという展開があった。その後に、米司法省による「特別捜査官」(スペシャル・カウンシル)としてコミーの元上司であったロバート・ムラー元FBI長官が任命され、その2週間後に、最後のコミー証言があり、幕が閉じた。今後、セッションズ司法長官の証言や、トランプの娘婿のジャレッド・クシュナーへの聴取、それと並行して司法プロセスとして「特別捜査官」の関係者への主にトランプに対する「司法妨害」の立件が可能かどうかの捜査が続く。

 ロシア・ゲート疑惑というのは、反ロシア派のオバマ政権やヒラリー・クリントンやその周辺が抱いている「妄想」ではないかというのが私の評価だ。まず、(3)【ロシア癒着問題】に相当する、トランプとのロシアの関わりでは、元イギリス情報部員が作成した調査報告書がある。しかし、これはトランプがホテルで売春婦を呼んで乱交(いわゆる「ゴールデン・シャワー」)をしていたなどの真偽不明の内容が多数含まれている。トランプの側近のうち、選挙対策本部長を一時つとめた、ポール・マナフォートという人物は、もともとロシアやウクライナの政府をクライアントにしたビジネスをやっていた。エネルギー部門のコンサルタントとして選対入りしていた、カーター・ページなる人物もロシアとのビジネスつながりはあった。さらにはマイケル・フリン前補佐官は2015年暮れに、ヒラリーの対抗馬としてリベラル派候補として出馬した、緑の党の女性候補だったジル・スタインと一緒に、斬新な反米報道で知られる「ロシアトゥデイ(RT)」というテレビ局の主催するパーティに出席し、プーチン大統領とテーブルをともにしたのは写真でも確認できる事実だ。

 確かに、ロシアつながりの人脈が多いのは否定できない。しかし、トランプ陣営で最大のロシア人脈といえば、親中国派でもあるヘンリー・キッシンジャー元国務長官その人だろう。キッシンジャーは、かつてはベトナム戦争推進側にいた人物だが、今や、現在の秩序を守るためには米国は中露と連携しなければならないとする「G3」のグループに属しており、これが民主化を旗印に米国が世界に軍事介入をするべきだという、ジョン・マケイン上院議員やヒラリー・クリントン元国務長官のような「ネオコン=グローバリスト」派との権力闘争の関係が続いてきた。イスラム国の台頭やウクライナの親露派・反ヤヌコヴィッチ前大統領に対する暴動などは、マケインが現地で指揮をしている映像も残っている。

 一方、ロシアが米国に対してプロパガンダを仕掛けているのは確かだ。それはネオコン派に対する情報戦である。ロシアの設立した国営放送のRT局は意図的にアメリカの反グローバリストと連携し、トランプをやがて支援することになる白人主義者のアレックス・ジョーンズやジル・スタインを良くゲストに呼んでアメリカ政治を解説させていた。これは周知の事実である。ただ、プーチン大統領が、最近のインタビューで述べていたように、米国もまたハリウッド文化やメディアコントロールを使って、日本を含む他の国の選挙に対して影響を与えようとしてきた。ハッキングにしても、アメリカの情報機関とロシアの関係はお互い様というほかはない。その意味ではRT局というのはアメリカの情報宣伝をそのままのやり方でロシアが真似たものでしかない。

(つづく)

<プロフィール>
nakata中田 安彦(なかた・やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。

 
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