2024年11月24日( 日 )

幸福の国コスタリカ その現状と課題とは?(前)

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(一財)カンボジア地雷撤去キャンペーン 大谷 賢二 理事長
ユナイテッドピープル(株) 関根 健次 代表取締役

 イギリスの民間シンクタンクのニューエコノミクス財団が発表した「地球幸福度指数」で3回連続1位を獲得したラテンアメリカの国、コスタリカ共和国。常備軍を持たない平和国家としても知られている。世界的に注目を集める同国の理想と現実を学ぶため、1年間限定で現地に移住したユナイテッドピープル(株)関根健次代表取締役と、現地を視察した(一財)カンボジア地雷撤去キャンペーンの大谷賢二理事長に、実際に見たコスタリカの現状と課題を語っていただいた。

コスタリカという国

 太平洋とカリブ海に挟まれた中米の国、コスタリカ共和国。面積は5万1,100km2で、人口は約481万人。九州と四国を足したぐらいの広さに、福岡県(510万人)よりやや少ない人口といえばイメージできるだろうか。南をパナマ共和国、北をニカラグア共和国と接している。
 この小国が近年、世界的に注目を集めている。2009年に幸福指数を基準にしたニューヨークタイムズの調査では、10点満点中の8.5点を獲得し世界148カ国中トップ。イギリスの民間シンクタンクの調査で「地球幸福度指数」の世界一に3回連続で輝くなど、世界一幸福な国とされているからだ。外務省のホームページにも「中米で最も安定した民主主義国」「高い教育水準(識字率96%)」とポジティブな記載がなされている。
 しかし、何よりも注目されているのは、1949年に憲法で常備軍を廃止し、それ以降、常備軍を持たない平和国家であり続けているからだろう。

自然と個人の権利を尊重する国

 ――「ラテンアメリカ」と聞くと明るいイメージですが、中米の国はどのような雰囲気なんでしょうか。

ディキスの石球は4つの遺跡から200個以上発見されている

 関根氏(以下、関根) 都市の大きさによりますね。とくにパナマは商業化が著しく、おそらくここ10年ぐらいで高層ビルや大型ショッピングモールがどんどん建って、グローバリゼーションが凄い。ニカラグアは貧しくて素朴な感じがする。コスタリカは「自然を大切にしよう」という意識が強く、たとえば海に行っても、音楽をガンガン流してパーティーをすることは基本的になく、自然そのままを生かしたビーチを楽しむ文化があります。

 大谷氏(以下、大谷) 世界遺産にもなっている遺跡(※1)があるのですが、現地の人はあまり知らないんですね。地図にも載ってないし、案内図もない。自然を大切にしているけれど、無頓着なところはありますね。
 また、中米は物価が安いというイメージを持たれているかもしれませんが、コスタリカの物価は安くないです。

 ――都市はどのように整備されているのでしょうか。

 関根 まず交通網があまり整備されていません。高速道路はありますが、途中でいきなり終わって一般道になったりと、日本の感覚からすると不思議なつくりをしています。
 なぜかというと、コスタリカは「個人の権利」を非常に重んじる国だからです。強制的に立ち退きや接収ができないため、日本のような公共工事ができない。どれぐらい権利を尊重しているのかというと、日本の最高裁判所にあたる機関が24時間開いている。いつでも誰でも最高裁判所に訴えることができる。
 たとえば、「近所で工事が始まってうるさいので止めてほしい」と申し出ると、翌日には止まるそうです。

 大谷 公共のものをつくろうとしても、個人の権利を優先するため、地域住民が反対するとストップする。だから、大規模なインフラ工事を進めにくい国なんですね。

 ――なぜ、そこまで個人の権利を尊重するのでしょうか。

首都サンホセへ続く道は常に渋滞しているそうだ

 関根 周囲の国に独裁制が多いことと、コスタリカも為政者に権力が集中してきた歴史があるため、独裁者が生まれないように権力を分散させようと徹底的に民主主義を貫いているからです。大統領や国会議員の4年間の任期が終わると、次は再任できません。良いことではありますが、長期的なプロジェクトを進めにくいという側面もあります。交通体系や国土計画、都市計画が不十分で、マイカーに替わるバス網や鉄道網、高速道路などの整備が遅れています。首都サンホセに通勤するのに、4時間かかるらしいですよ。
 また、流通コストが高いため輸入食品が高いです。たとえば、距離的には近いのに、チリ産ワインが日本より高価なんです。一方で、青空マーケットはよく目にしますね。大型スーパーでも、ほぼ量り売りです。パッケージやフィルムがないため、環境面では良い面もあります。

 ――お話を聞いていると、独特な国民性をしている印象です。

 関根 プーラ・ビーダ(Pura Vida)という言葉がありまして、プーラは「ピュア、純粋な」、ビーダは「生き方、人生」。挨拶や謝罪など、さまざまな場面で使うのですが、何から何までプーラ・ビーダで済ませる、のんびりとした国民性ですね。たとえば、基本的にサービスが遅い。電話線を引くのに半年かかったという話を聞きました。コスタリカで暮らすには短気は禁物です。のんびりしているから幸福度は高いのかもしれません。私がコスタリカで暮らしていた家の近くに雨季になると通れなくなる道があったのですが、近所の人たちは「橋なんてできたら忙しくなるから嫌だ」「観光バスが来て騒がしくなる」なんて言うんですよ。「人生は幸せに生きるためにあるものだ」という出発点があって、それが働き方や生き方につながっている。
 大谷 コスタリカの人は、のんびりしていてあまり働かないですね。隣のニカラグアの人は働き者でびっくりしました。

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【文・構成:犬童 範亮】

※1 ディキスの石球のある先コロンブス期首長制集落群:2014年にユネスコの世界遺産リストに登録された文化遺産。発見された石球はほぼ真球で、今なお正確な製造方法や目的などは特定されていない。なお、コスタリカには他に3件の自然遺産が存在する。

■コスタリカ共和国
面積:51,100km2(九州と四国を合わせた面積)
人口:481万人(2015年時点)
首都:サンホセ
言語:スペイン語
民族:スペイン系および先住民との混血95%、アフリカ系3%、先住民他2%

<プロフィール>
大谷 賢二(おおたに・けんじ)
1951年、福岡市生まれ。九州大学法学部卒。98年5月、NGOカンボジア地雷撤去キャンペーン結成。2008年12月、アジア人権基金より「アジア人権賞」を日本人として初受賞。11年4月、(一財)カンボジア地雷撤去キャンペーンを設立、理事長に就任。

 

<プロフィール>
関根 健次(せきね・けんじ)
1976年生まれ。ベロイト大学経済学部卒業。2002年にユナイテッドピープル(株)を創業し、世界の課題解決を目指す事業を開始。03年、募金サイト「イーココロ!」を運営。09年から映画配給事業を開始。11年から(一社)国際平和映像祭を設立し国連が定めたピースデー9月21日に合わせてUFPFF 国際平和映像祭を主催している。

 
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