イギリスを襲うテロと大火災のダブルパンチ~求心力を失うメイ首相(中)
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国際政治経済学者 浜田 和幸 氏
先の総選挙に自信を持って臨んだものの、想定外の過半数割れに直面したメイ首相。苦肉の策として、北アイルランドの地域政党DPUと閣外協力を模索しているようだが、果たしてうまく行くものか、不安材料だらけである。こうした政権の脆弱性を抱えているため、EU離脱交渉を有利に展開できるとは、とても思えない。
フランスのマクロン新大統領は、「今からでも遅くない。EU離脱を見直してはどうか」と声を掛けている。しかし、国民投票で離脱を決めた経緯もあり、自らの主導した政策を転換することは「即、政治的生命を失う」ことになるわけで、メイ首相とすれば譲れないところであろう。
しかし、こうした異常事態に直面することになった背景には、今日のイギリスが置かれている経済的、社会的格差の拡大という深刻な問題が横たわっていることを無視することはできない。かつては、「ゆりかごから墓場まで」と言われたほど、福祉が充実していたイギリスである。ところが、近年では、経済、地域格差が拡大し、国民の間では疎外感や差別感情が拡大する一方となっていた。
今回、大火災の発生したロンドンの西部地域は、全体的には高級住宅地と目されている。美術館やコンサートホール、そして外国の大使館らが軒を並べ、市民にとっては憧れの場所でもある。そんな中に場違いのようにポツンと建っていたのが今回火災が起きた「グレンフェル・タワー」と呼ばれる建物だった。ここには主に低所得者や外国からの移民や難民が暮らしていた。特に多いのがアフリカ、カリブ、南アジア、中東地域からの移住者である。
周辺地域との不釣り合いな建物の雰囲気を改善するため、建物の所有者である地区の自治体RBKCは、「外回りを美しく見せよう」と考え、外壁材に遠目から美しく輝くようなアルミ素材を使用したと言われる。
ところが、見た目は美しいものの、耐火性は全く講じられていなかったため、今回のような火災に対しては、かえって火の回りを早くすることになった模様だ。耐火性の乏しい安い素材を使った結果が今回の災害をもたらしたわけで、正に“人災”と言っても過言ではないだろう。しかも、経費削減と民営化の掛け声の下、過去5年間で、市内の消防士の数は7,000人も削減されている。消防署も相次いで閉鎖され、緊急対応が難しい状態となっていた。
(つづく)
<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選を果たした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。
今年7月にネット出版した原田翔太氏との共著『未来予見〜「未来が見える人」は何をやっているのか?21世紀版知的未来学入門~』(ユナイテッドリンクスジャパン)がアマゾンでベストセラーに。関連キーワード
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