「日台交流」新時代の予感・その姿を探る!(後)
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(公財)日本漢字能力検定協会 台湾アドバイザー 山本 幸男 氏
実際のビジネスで日本語を運用する力を判定する
――2014年12月に台北市工商会と台湾日本人会の総幹事を退任された後、すぐに(公財)「日本漢字能力検定協会」に台湾アドバイザーに就任されています。これはどのような組織なのでしょうか。
山本幸男氏(以下、山本) 日本漢字能力検定協会は「日本語・漢字を学ぶ楽しさを提供し、豊かな社会の実現に貢献する」を理念に、日本語能力育成活動を中心に各種公益事業活動を行っている団体です。
日本の皆さんが良くご存知の「今年の漢字」は、広く国民よりその年の世相を表す漢字を投票いただき投票数の一番多かった漢字を毎年12月に京都「清水寺」の森清範貫主に、大きく揮毫いただき、清水寺のご本尊・清水型十一面千手観音像に奉納する儀式を行っています。この儀式により、漢字に託されたその年の世相が清められ、これから迎える新年が明るい年になることを願うわけです。
日本語能力育成活動の最大の事業は「日本漢字能力検定(漢検)」(1級から10級)で、主に日本国内で、年間200万人強が受験しています。一方で、私が現在アドバイザーを務めております「ビジネス日本語能力テスト(BJT)」も漢検協会が鋭意推進している事業です。BJTは日本貿易振興機構(ジェトロ)によって1996年に始まり、2009年に同協会が事業を継承しました。
一般的な日本語能力試験(日本への留学を目指す外国人が受験する国際交流基金が実施する「日本語能力試験(JLPT)」など)と異なるのは実際のビジネスで日本語を運用する力を判定することに力点を置いている点です。2013年に11月に台北で初めて実施され、現在は台北ほか台中、高雄でも実施しています。志願者は16年には949人になり、台湾は世界の受験者の中で14%を占めています。16年までは6月と11月の年2回、紙に回答する方式で実施していました。しかし、今年からは指定の会場(台湾国内で4カ所)にあるコンピューターでいつでも受験できるCBT(コンピューター・ベースド・テスティング)方式に変更しました。結果も従来の2カ月待ちから即日判明となり、志願者の急増が期待されています。
台湾の日本語学習者は約20万人います。趣味レベルで学ぶ人も含めると約200万人と推定されています。近年は台湾の大学を卒業して、日本企業への就職を目指す学生も増えてきました。日本企業もアジアの優秀な人材を求めています。こうした流れの中で、BJTが重要な役割を果たしていければと思っています。さらに、台湾ではこれから日本語世代の退場で平均的な日本語レベルが大きく下がることが懸念されています。日本語レベルを維持そして向上させていく努力が今求められているのです。
台湾近代化の基礎を築いたのは日本統治の50年間
――台湾では日本語を学ぶ人が200万人(人口の約8%)もいるのですか。驚きました。ところで、台湾市民社会について少し触れて頂けますか。
山本 先ほど、台湾企業社会に関して日本人が知らない、誤解している点が多いと申し上げましたが、市民社会についても同じことが言えます。
現在の私たちは台湾を断片的にしか知りません。日本が植民地とした台湾で、児玉源太郎(4代台湾総督)、後藤新平(台湾総督府民政長官)、新渡戸稲造(台湾糖務局長として製糖業に尽力)、八田與一(技師として水利事業・ダムに貢献)などがどのような統治を行なったのをほとんど知りません。しかし、台湾の多くの人は知っており、台湾近代化の基礎を築いたのは、日本の統治50年間だとしてプラス評価で考え、感謝しています。
必ずしも相思相愛、親日的とは限らないと言えます
しかし、一方で戦後日本が引き上げてからは、蒋介石の反日教育があり、世代によっては、日本人が思っているように必ずしも全て相思相愛、親日的とは限らないのです。企業社会はもちろんですが、市民社会でもお付き合いをする際はそのことを十分に認識しておく必要があります。
現在の台湾は大きく3つの世代に分かれます。1つ目は70歳~90歳代です。日本語世代で、会社のオーナーや会長世代で、親日的です。2つ目は、今の社会の中心である50歳~60歳代です。反日教育を受けた世代で、アメリカ留学組が多いのも特徴です。3つ目は40歳代以下です。この世代は、父母が仕事で忙しく、おじいさん、おばあさんに育てられました。ちょうど1990年代以降政治も民主化された時代に育ち、日本語学習にも熱心で、日本に対する関心がとても高く親日的です。ただ日本への関心は若者文化のアニメ、映画、音楽などが主であることが特徴です。
仏教伝来の言葉「刻石流水」を座右の銘にしています
――知らなかったことが多く、大変に勉強になりました。いずれにしても、台湾は距離的にも、文化的にも近いので、さらに双方で円滑なコミュニケーションが促進されることを期待します。日台交流の新時代演出に役に立つメーッセージを読者に頂けますか。
山本 私は仏教伝来の言葉「刻石流水」を座右の銘にしています。その意味は、「恩は石に刻め、恨みは水に流せ」と言うことです。さらには、「功は人に譲れ」を付け加えています。私は今後も、日本側の理解が進んでいない台湾の現状について、教育の場やメディアを通じて紹介、人と人とのご縁を大事にしながら、日台友好の懸け橋になっていきたいと思っております。
――本日はありがとうございました。
(了)
【金木 亮憲】<プロフィール>
山本 幸男(やまもと・ゆきお)
1948年 大阪生まれ。1971年 大阪大学経済学部卒業後、三井物産に入社。主に本店非鉄金属部門で中国ビジネスを担当後、1979年に会社派遣で北京語言学院に留学。留学後、中国(広州、北京)に着任3回、通算15年中国滞在。2008年 台北市日本工商会、台湾日本人会の初の専属総幹事に就任。現職として(公財)日本漢字能力検定協会 台湾アドバイザー、(財)台湾協会 台湾連絡事務所長のほか、台日産業技術合作促進会 諮詢委員、台湾大学日本研究中心 外部支援コーディネーター、台日文化経済協会 会員委員会副主任など数多くの役職を兼任。関連記事
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