2024年11月19日( 火 )

民間でもトップランナー!国難の空き家問題に取り組む(2)

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(一社)全国空き家バンク推進機構 理事長 樋渡 啓祐 氏

武雄に移住する若者たち

 ――市長をされていた8年8カ月で、故郷において、かなりの老人たちが亡くなられ、本家が空いても、都会に出ている後継ぎには相続しようと手を挙げる人が少なかったのでは。

 樋渡 それもありましたが、今、若い人たちは東京を嫌がっています。我々の世代は、「バブル世代」「新人類」と呼ばれました。お金第一で「稼いでなんぼ」という価値観です。それを否定するわけではありませんが、最近の若い人たちは、むしろ人のつながりや、金銭的なものではない心の豊かさを求めているように思います。そして、武雄にも移住する若者が増えています。

 ――見ず知らずの土地に移住し、彼らはどのように生計を立てているんですか。

 樋渡 ネットで収入を得ているようです。ネットが副収入ではなく、主収入になっています。Amazonマーケットプレイスに手数料6~7%を払うだけで食っていける。もはや、家賃が月150万円という東京では、馬鹿馬鹿しくてやってられないわけです。

 ――武雄では、そのような事例がどれほどあるんですか。

 樋渡 まだ、始まったばかりですが、その彼らに憧れて、また、移住が増えて来ます。100世帯くらいになれば世の中が変わりますね。あの武雄でできるなら、たとえば、福岡県の春日市だともっとできるはずだと。若者にとって、東京は、魅力のある町でなくなりつつあります。

 ――民間人になられて、市長をされていたときよりも時代の最先端が見えてくるということはありませんか。

 樋渡 ビジネスをやっていると、すごく見えますね。なぜ、この人たちが武雄にやって来ているのかということを、市長のときはそこまで分析する必要がありませんでした。「来たら、ウェルカムばい!」と。今は、「なぜ?」という発想があり、それで質問すると、先ほどの話が出てきます。

 ――移住して所帯を持ち、そこで生まれた子どもたちはどうしようと考えているのですか。

 樋渡 そこが、また面白くて、子育ての面でも「武雄がいい」と言っています。なぜかというと、武雄市は、少人数学級で、学習塾が学校と連携しながら運営されています。文科省が進める最先端のプログラミング教育もずいぶん前からやっています。つまり、公教育が充実している。教育が良いという要素は移住を決める1つのポイントなんです。

 もっと驚いたのは、「保育園は田舎がいい」と皆さん言われています。都会だと、子どもの遊ぶところはコンクリート。お散歩は車の脇をすり抜けながら。しかし、田舎になればなるほど、野山で遊べる。幼いころに、それを経験している親は、自分の子どもたちにも体験させたいと考えています。しかも、通勤に時間を取られることなく、自宅で仕事ができる。だから、田舎のほうが良いと考えます。

 また、武雄の場合、福岡市の存在がポイントになっていまして、都会で遊ぶときは福岡でいい。さらに言えば、福岡空港も最大のポイントです。東京に行きたい場合も、福岡空港から東京へ向かう便数が多く、満員電車と違って座れます。だから、住む・仕事するは田舎でいい。たまに遊びに行くのは福岡でいい。もっと遊びたい場合は東京に行き、ディズニーランドに行く。今、「田舎」と「都会」の再定義がなされてきて、私たちが抱いているイメージとは、かけ離れているものが20代にはあります。それが、私が民間人になって抱いた最大の実感です。

 ――私たちは、老婆心で田舎暮らしだと農業しか稼ぎがないと言っていましたが、豈図らんや、今はネットで稼げるようになったということですね。

 樋渡 ネットでやり取りができますから、福岡や東京にいる必要はないんですよ。むしろ、生活費が安くすむ田舎がいい。少し武雄を想起していただくと、わかりやすいんですが、米、麦、大豆、野菜は、みんなで回しています。それが豊かさだと20歳ぐらいの子が思っているわけです。

 ――しかし、彼らが主流になると、国民総生産は250兆円くらい減るかもしれませんね(笑)。

 樋渡 僕は、それは違うと思っていまして、むしろ、田舎で所得が上がると、お金は回るんですね。それに今の20代は貯金をしません。「武雄だったら何とかやっていける」「ここなら、みんなが助けてくれる」と思えば、お金を貯める必然性を感じなくなり、買い物をしようとなる。贅沢とかではなく、良い器を買う。豪華な家ではなく、多少値が張っても住み心地の良い家に住む。地場でお金が回るようになります。むしろ、今までは東京がお金を吸い上げるシステムになっていたかもしれませんが、これからは地場でお金が回る。また、東京から目の肥えた人たちが来ると、地場の業者もレベルが上がります。

(つづく)
【文・構成:山下 康太】

<COMPANY INFORMATION>
(一社)全国空き家バンク推進機構
代 表:樋渡 啓祐
所在地:東京都千代田区平河町2-5-3
設 立:2017年6月
URL:http://zab.or.jp
E-Mail:info@zab.or.jp

 
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