2024年11月19日( 火 )

民間でもトップランナー!国難の空き家問題に取り組む(3)

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(一社)全国空き家バンク推進機構 理事長 樋渡 啓祐 氏

移住希望者へのマッチング

 ――今は一部の傾向かもしれませんが、もっと広がりそうですね。

(一社)全国空き家バンク推進機構 樋渡 啓祐 理事長

 樋渡 いやいや、大きな流れになりますよ。明治維新後、ずっと日本は東京の一極集中でしたが、江戸時代を考えると、それぞれの地方で食っていけていたわけです。そこに今、戻ろうとしています。振り子みたいに。もはや、今の子たちは、東京の一極集中は無理だと感じていて、通勤地獄とか、すごく狭い所に住んでいたりとか、耐えられないと。僕らの世代は我慢強いから耐えていましたが、より田舎に、より精神的な豊かさを求めるのは、ゆとり世代の発想なんですね。それをITが支えています。

 ――たとえば長崎市では、斜面地の住宅に空き家が増えていますが、地元の不動産業者からは、タダでも売れないという話を聞きます。どのように解決していくのですか。

 樋渡 一気に空き家を流動化させて、マッチングします。今までは、ITでも長崎市の情報は長崎市に取りに行かないといけませんでしたが、これからは全国版「空き家バンク」を見るだけで済むようになります。そうすると、今までなかったようなアイディアも出てきます。僕らは、空き家だけでなく、空き地や廃校も対象にしようと思っていますが、たとえば公共団地でたくさん住居を作っているところは、見晴らしの良いところにありますから、宅地分譲するという手もあります。廃校を道の駅にするとか、そういう発想は民間人でしか無理です。そのためのプラットフォームをつくります。

 ――情報の流動化を地元の人間でやるということですか。

 樋渡 それもありますし、持っている空き家を登録することで、全国の人がその情報を見るわけですから、そのなかに住みたいという人が出てくる。あとは、行政が移住の手続きをスムーズにする。ここは、官民でスクラムを組んでやろうと思っています。具体例がありまして、「地方創生のメッカ」とされる島根県邑南町(おおなんちょう)では、町人口1万1,100人(15.10.1現在)に対して移住希望者が年間500人いますが、実際の流入人口は5~10人だそうです。なぜかと聞くと、「住む家がない」と。これはおかしいと思って尋ねると、空き家は1,000軒あるそうです。つまり、全然マッチングしていないんですね。モノはあるのに、欲しい人に届いていない、それが地方の現状です。

田舎暮らしを選ぶ理由

 ――今の若い人たちの移住は、危機感で動いているということかもしれませんね。

 樋渡 政府は、人口の流出、減少を食い止めようとしていますが、僕は、それを間違いだと思っていまして、結果的にそうなればいいと思っています。子どもを何人産むとかは若い人たちが決める話です。それを政府が、3人産め、5人産めというのは間違いであって、住みやすくなれば、結果的にそうなりますから。フランスで税金を下げたら子どもが増えるというのは大ウソで、フランスの地方が暮らしやすいからです。休みはいっぱいあるし、その分だけ、所得は高いし、減税が後押しした部分はたしかにあるけれども、それが原因というのはウソです。若い人たちがどのような人生を歩むかを考え、僕たちの世代以上が為すべきことは、それをきちんと提供するということです。ただし、こうあるべきと押し付けるのではなく、選択肢を示すようにしないと。その役割を誰もしてこなかったから、それを僕がやろうと思っています。

 ――ところで、どのへんで若者の価値観が変わったと思いますか。

 樋渡 社長くらいですよ、そういった質問をなされるのは。僕が思うのは東日本大震災の前と後です。あの震災を経験したことで人生観が変わっています。たとえ、被災地でなくても、ブラウン管でなく液晶によって、震災の生々しい光景を見ることで、小学生の高学年から高校までの子たちは人生観が変わっているはずです。

 ――決して「永続」はないと。そして、種の保存本能が働き出した。

 樋渡 そう。生物として防衛本能が働いているから、安全なところに住みたいとなるわけです。社長のお言葉を聞いて、僕もわかったのは、動物として、種の保存・種の繁栄を考えたときはエスケープするしかないんです。子どもたちの本能の生命装置が作動してしまった。親が東京の大学を勧めても、子どもが行きたくないというのは本能の話なんですね。

(つづく)
【文・構成:山下 康太】

<COMPANY INFORMATION>
(一社)全国空き家バンク推進機構
代 表:樋渡 啓祐
所在地:東京都千代田区平河町2-5-3
設 立:2017年6月
URL:http://zab.or.jp
E-Mail:info@zab.or.jp

 
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