トルコで見た『正義の行進』100万人集会の背景と行方(前)
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国際政治経済学者 浜田 和幸 氏
大の親日国であるトルコの未来に、危険信号が灯っている。国家非常事態宣言が発令され、テロ事件も相次ぐ。和歌山県沖で遭難したトルコの軍艦「エルトゥールル号」を日本人が救出した「海難1890」に象徴されるように、両国の間には歴史の荒波を超えて友情と信頼の絆が育まれてきた。そのこともあり、トルコを訪れる日本人観光客は鰻登りであった。ところが、その流れがピタリと止まってしまったのである。「トルコは危ない」といったネット情報が流布したせいであろう。
筆者はこの7月上旬、イスタンブールを訪ねた。その真偽を確かめるためである。トルコといえば、世界から多くの観光客を引き付ける歴史と文化の宝庫。とくにイスタンブールは1500年以上にわたり、かつてのローマ帝国、ビザンチン帝国、オスマン帝国の首都であった。今でも各地に壮大なモニュメントが残り、多様な宗教や文化の融合するモザイク国家の面影を宿している。モスク、教会、ユダヤ教の礼拝堂であるシナゴーグが隣り合うという寛容と融合の街である。最近の調査によれば、この地に人が住み始めたのは40万年前に遡ることが明らかになった。
実際、イスタンブールに滞在してみると、実に落ち着いた雰囲気で、町中に活気が溢れていた。ただ、たしかに日本人の観光客にはあまり出会うことはなかった。その代わり、中国人の団体観光客が通りやレストランを占領していた。小生もホテルやレストランなどいたるところで、「ニイハオ!」と声をかけられた。
トルコを訪れる観光客で最も多いのはドイツで、その次がロシアであった。日本からの観光客を含め、年間8,000万人近くが訪れていたものだ。しかし、それは2016年の夏までの話。昨年7月に発生したクーデター未遂事件や本年1月以降の相次ぐテロ事件の影響もあり、現在は最盛期の3分の1程度にまで落ち込んでいる。昨年の観光客は2,500万人で、過去10年間で最低を記録した。
「観光立国」を標ぼうするトルコの経済にとっては、大打撃である。なかでもロシア人観光客は92%も減少してしまった。その背景には、シリアの上空でトルコ軍がロシアの戦闘機を撃墜したことが影響している。15年の11月のことだった。この事態を受け、ロシアのプーチン大統領は、ロシア人観光客を乗せたトルコ向けチャーター機の運航をストップさせたのである。
トルコには、太陽のさんさんと降り注ぐ黒海周辺の保養地など、ロシア人に人気の観光スポットが数多くある。筆者も訪ねたが、ロシア語の看板が多いのに驚かされた。しかし、肝心のロシア人の姿はどこにもなかった。
現在、エルドアン大統領はロシアとの関係改善を模索しており、早晩、ロシア人観光客も戻って来ることが期待されている。その間、埋め合わせを演じているのが中国人である。年間1億人の観光客を海外に送り出す中国。今回、トルコでも若いカップルや学生と思しき世代の中国人が目立ったものである。
(つづく)
<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選を果たした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。
今年7月にネット出版した原田翔太氏との共著『未来予見〜「未来が見える人」は何をやっているのか?21世紀版知的未来学入門~』(ユナイテッドリンクスジャパン)がアマゾンでベストセラーに。関連キーワード
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