2024年12月23日( 月 )

避難勧告が解除されない朝倉市黒川地区~「助け合って前を向いていかんと」(前)

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 朝倉市を襲った大雨災害から3週間以上が経過した。自衛隊やボランティアなどが復興に向けて連日、作業を行っているが、取材に訪れた7月26日現在、市内でもとりわけ復興作業が遅れている地域がある。同市の黒川地区だ。同地区は梨の栽培のほか、6月にはホタルが飛び交う観光名所としても知られ、廃校となった旧黒川小学校を使用した美術館「共星の里」があることでも有名だ。しかし、黒川は未だ避難勧告が解除されておらず、地元住民らが不便な生活を強いられている。携帯電話のキャリア3社が仮設の電波受信設備を設置し、九州電力が電源車を稼働させることで、電話と電力は当面の見通しが立ったが、未だインターネットの光回線は復旧のめどが立ってないようだ。また、災害ボランティアも十分な人数は派遣されておらず、住民らは土木工事会社と自らの手で復旧活動を行っている。理由は地区に通じる道路が被害を受け、安全に通行できないためだ。「このままだと黒川から人がいなくなる。その前に何とかしたい」と話すのは、近くに居住し、同地に縁のある石井太郎さん(39歳)だ。

壊滅状態となった地区もある黒川

石井太郎さん

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高木の梨がピンチに

 石井さんによると現在、黒川地区は流木置き場となっている「あまぎ水の文化村」(三奈木地区)横を通る道しか通行できず、190戸370人の住民は不便を強いられている。黒川では3人の人命が失われ、石井さん自身も災害発生から3日目の7月8日、自衛隊のヘリコプターで救助された。現状、1週間ほど前に生活道路は瓦礫や流木が撤去され、自動車の通行が可能となったが、石井さんが住む山間の地区は自動車の通行ができず、徒歩で下山してようやく街中に出られる状況だという。同地区は高木梨で知られる梨の名産地。今回の水害では、梨園は無事でもそこに向かう橋がほとんど流失している。これから収穫のシーズンを迎えるが、消毒作業を含めた手入れができない状況だ。「梨農家の多くが高齢者。仮に橋をなんとか渡ったとしても作業に必要な資材を運ぶのには無理がある。このままだとクズ梨となり出荷できない可能性もある」(地元住民の声)。状況は深刻だ。高齢者が多いこともあり、高木梨のブランドの存亡にも関わる。

 山間の佐田川には無数の流木がそのままとなり、川岸にはショベルカーなどが連日流木の撤去を行っている。県道509号線、588号線が交差し、間を流れる川に架かった橋の鉄の橋げたは残っているものの、水流で大きく曲がっている。「昔、段々畑があった場所でしたが、土砂が覆いかぶさり平地となっている。砂防ダムが点在していたがそれも破壊された。流木とともに流されたからなのですが、自然の脅威を感じますね」(石井さん)。なかには川が土砂で埋まり、本来畑があった所に新しい川ができている所もあった。自然の脅威とはいえ、ここで農作物を育てていた人たちにとっては無念で仕方ないだろう。川沿いにも、なぎ倒された杉林の痕が見える。斜面の林が倒れ、上流から流れてきた水と流木が川沿いの杉林をなぎ倒したのだろうか、まことに痛ましい光景だ。

川の向こうに取り残された梨園と流木でなぎ倒された梨園

橋はひん曲がった

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畑を仮設道路に

道路が陥没。農地を臨時道路に

 黒川地区に向かう際、離合せずには通れない道路が複数点在する。なかでも県道509号線と交差する同588号線を黒川方面へ向かうと、突如路面が下がる所がある。「ここは道路自体が流され、1mほどしか残っていない。かつては立派な生活道路だった。急きょ、畑があった土地を整地して仮設道路にして通行できるようにした」(石井さん)。仮設道路の上から見ると、側面に断層が見え、道路が崩落したことがよくわかる。仮設道路となった畑は以前キュウリ畑だったそうだ。現在は、その痕跡すらない。

 その先を車で走ると、かつては一面田んぼだった地域があったが、土石流でほとんどが流されていた。かろうじて流されなかった稲が残っているものの、ほぼ壊滅状態といって良い。「1町あった田んぼが(災害で)1反になってしもうた。言葉がない」と語るのは農業を営む秋吉さん。さきほど通った仮設道路も秋吉さんが保有する畑だそうだ。「自分の畑とか言ってられない。みんな困ってるので」と非常事態を受け入れている。秋吉さんの畑は土砂で流されたが、道を挟んだ畑は無事だった。しかし、流されなかった畑にも土砂が入り込み、今後の作物の生育には懸念が残る。「こんな事態は初めて。土砂をかぶった状態で稲がきちんと生育してくれるのか」。生まれて初めての経験に秋吉さんは困惑する。米はこれから収穫の時期を迎えるが、それまでにかけた農薬の費用や手入れなどの作業がすべて無駄になった。「被害額はわからないが、前を向いて助け合っていかんと」と、気持ちは前向きだ。

「田んぼに土砂が入った」と秋吉さん

1町あった田んぼが1反(10分の1)しか残らなかった

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(つづく)
【矢野 寛之】

 
(後)

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