2024年11月23日( 土 )

欠陥マンション訴訟で浮き彫りになる久留米市の職務放棄(中)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

除却命令が出た姉歯事件の前例

新生マンション花畑西

 裁判における久留米市の基本主張は、「建物がどんなに違法状態であっても、現況で建物が壊れていなければ問題ない」という無責任なものだ。「構造の欠陥を抱えた建物に対する行政指導として、構造計算の偽装や建築確認通りに建築されていない建物に対しては、行政から是正命令が出されており、たとえば、過去に話題となった姉歯事件においても、耐震強度が50%未満の建物については、各行政庁から除却命令が出されている」(協同組合建築構造調査機構・仲盛昭二理事長)。

 国土交通省の報告(表参照)によると、耐震強度が50%未満である11件の分譲マンションのうち、早期に建替え合意が成立した1件を除く9件について各行政庁(東京都、墨田区、江東区、世田谷区、北区、大田区、川崎市、藤沢市)から除却命令、1件について使用禁止命令(東京都中央区)が出されたという。「これらの建物は耐震診断の結果ではなく、新耐震基準の構造計算による保有水平耐力比が0.5未満(耐震強度50%未満)の場合、補強による対応が不可能であると判断された」(仲盛氏)。

 ここでいう耐震強度とは、本件マンションの設計規準である新耐震基準による耐震強度である。「壊れなければ問題ないという久留米市の主張は、耐震診断などと同じ崩壊理論によるものであり、裁判所は、構造計算と耐震診断を混同している」と、仲盛氏は指摘する。

※クリックで拡大

 「1981年に建築関係法規が大幅に改正され、厳しい基準となった。これが『新耐震基準』と呼ばれるものである。改正以前の『旧耐震基準』により設計された建物は、新耐震基準により設計された建物と比較して耐震性が著しく劣るため、耐震性を判断する方法として、緩和措置である『耐震診断』が適用される。耐震診断は、たとえば、最も多く採用されている二次診断法では、『梁は崩壊しない』と仮定するなど、相当緩和された前提に基づき診断される。したがって、新耐震基準よりも相当低いハードルとなる」(仲盛氏)。

 「新生マンション花畑西」は、耐震診断による検証においても、要求される耐震強度の24%の強度しか有していないことが判明しており、この結果は、裁判所にも提出されている。

 「久留米市が除却命令を出さないのであれば、本件マンションが安全であることを工学的に説明すべきだ。しかし、久留米市は、行政として当然為すべき業務を放棄し、『建築確認通知書の設計図書は本物ではない』などと、屁理屈までも持ち出して、自らの責任のがれのためになりふり構わぬ主張を繰り広げるばかりで、マンション居住者や近隣住民の生命・安全には目を向けようともしない」(仲盛氏)。

 久留米市の主張が認められれば、設計者や施工業者が法令を無視し、違法な建築を行っても、行政は関知しないということになる。法令を遵守するよう指導すべき行政の職務放棄だ。

(つづく)
【文・山下 康太】

 
(前)
(後)

関連キーワード

関連記事