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トランプ大統領が敵視する「ディープ・ステート」とは何か(後)

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副島国家戦略研究所 中田安彦
(2017年8月30日)

 トランプ大統領は、娘婿のジャレッド・クシュナー大統領顧問が「家族ぐるみ」の交際がある、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ政権を強く支持しており、そのためイスラエルの外交上の脅威であるイランの核開発についてはそれなりに厳しいスタンスを取りがちだ。オバマ政権が結んだ「イラク核開発停止合意」についても、他の閣僚たちと異なり、合意を見直す姿勢を崩さない。

 確かに、この反イラン・親イスラエルの点は、反ロシア、親イスラエルゆえに反イランのネオコンや民主党の人権派と共通しているが、肝心のロシア政策ではトランプは共和党の伝統的な大国間均衡を重視する、ヘンリー・キッシンジャー元国務長官の掲げる「G3」路線を今のところ支持しているからネオコン派とは意見が合わない。

 さらにネオコン派と民主党がトランプを許せないのは、選挙戦当初から数々の人種差別、女性差別発言を繰り返すことで、世界がアメリカの「ソフトパワー」を信用しなくなり始めていることだ。ヒラリーは軍事力とソフトパワーを複合的に行使する「スマート・パワー」の信奉者である。ネオコン派は対外的には民主主義を広めるために軍事力の行使も辞さないが、国内政策では極めてリベラルだ。つまり、トランプのやっていることと真逆だ。

 私にはトランプがそこまで深く考えて差別的発言を繰り返しているようには見えないが、ネオコン派にとっては、「軍事的にはハト派、国内政策では反リベラル」のトランプが厄介な存在になっている。反トランプの旗頭を共に掲げているネオコンと民主党ヒラリー派は融合しているのだ。これに対しては、昔ながらの反戦左翼のバーニー・サンダースを応援した勢力が強く反発しているが、主だった民主党支持者たちはトランプの差別主義憎しで、反トランプであれば、反ロシア派のCIAをも賞賛するようになったのは非常に由々しきことだ。共和党内部でもネオコン派と意を通じているマイク・ペンス副大統領がいることを忘れてはならない。

 ヒラリー・クリントンが凶暴な「ディープ・ステート」のメンバーの1人であるのは、選挙戦中にヒラリーの闇を暴こうとしたジャーナリストや政界関係者が選挙戦のさなかに次々と不審死を遂げていることからも分かる。

 反イスラム原理主義だが非軍事介入主義派のバノンが追放されたことで、ネオコン派やディープ・ステートは喝采を送っているが、現在、外交政策のトップにあるのはマクマスター国家安全保障担当補佐官やジェームズ・マティス国防長官、ジョン・ケリー首席補佐官ら軍人たちとキッシンジャー派のティラーソン国務長官だ。彼らはネオコン派ではなく、現実主義派(ディフェンシブ・リアリスト)と言われる人々だ。政権内ではニッキー・ヘイリー国連大使がネオコン派に最も近い。

 ただ、気になる点はトランプの思考回路が、このような政治勢力論に基づいた派閥分析をときに裏切る行動をすることだ。例えば、最近、トランプはティラーソンに対して批判的になっているという報道がある。そうかと思えば、ブッシュ政権の重要なネオコン派の1人だった、強硬な反イラン、北朝鮮(ブッシュ政権の悪の枢軸の2つ)のジョン・ボルトン元国連大使もかつてのように自由にトランプに会えなくなっているそうだ。

 トランプは部下からの忠誠心を何よりも重視する。それは政治派閥を超えた判断基準だ。トランプや娘のイヴァンカやクシュナーの判断でホワイトハウスの陣容が変わってしまうのは、この夏の相次ぐ政府高官の辞任で明らかになった。ただ、いずれにしても外交においては価値観を重視するネオコン派はトランプには振り回されたくないと思っているはずである。

(了)

▼関連リンク
・What’s Worse: Trump’s Campaign Agenda or Empowering Generals and CIA Operatives to Subvert It?
・With New D.C. Policy Group, Dems Continue to Rehabilitate and Unify With Bush-Era Neocons

<プロフィール>
nakata中田 安彦(なかた・やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。

 

 
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