ホーキング博士の気になる未来予測 地球温暖化とキラー・ロボット(後)
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国際政治経済学者 浜田 和幸 氏
いうまでもなく、我が国はロボット技術に関しては民生分野において、世界をリードする立場にある。「鉄腕アトム」、「鉄人28号」、「エイトマン」、「ドラえもん」など漫画の世界から始まり、自動車や半導体の製造工場は言うまでもなく、介護や癒し系の人型ロボットの実用化に関しては、世界を圧倒する技術の蓄積を誇っている。ペッパー君が銀行やホテルで接客にあたり、愛嬌を振りまいている国は他にはないだろう。「デュアル・ユース」と呼ばれる民生技術を防衛装備として活用する動きは当然の流れになろう。日本政府では新たな輸出産業に育てる戦略を構想中だ。
「インパクト」と呼ばれる「革新的研究開発推進プログラム」に代表されるように、我が国では、防衛省が音頭をとり、内閣府、経産省、環境省など他の府・省が推進する国内の先進技術育成プログラムのなかから、デュアル・ユース技術として利用できる可能性を徹底的に追求しようとする方針が打ち出されている。
新たにスタートしたばかりの防衛装備庁においては、最大の同盟国であるアメリカの先端技術開発庁(DARPA)や防衛分析研究所(IDA)、国防契約管理庁(DCMA)等と情報交換や人的交流を深めることで、ロボット関連技術についての日米の共同研究開発も視野に入れている。テロ対策にもロボット兵士の活躍が期待されているようだ。
民間の分野においては、グーグルが進めるGPS機能を活用した無人自動車が注目を集めているが、国防の分野においては自立型無人航空機など、無人装備品の研究が着実に進んでいる。そして、両者の融合が差し迫った課題となっていることは論を待たない。こうしたニーズを先取りする形で、グーグルは世界中のロボット技術会社を買収し、ニュービジネスの中心に据えようとしている。グーグルは既にヒューマノイド・ロボットの販売を本格化させつつある。
こうした動きは外交・経済・技術と言った各要素を一体化する戦略が世界の趨勢となりつつあるからだ。様々な防衛装備品をステルス化・軽量化・無人化するためには、新素材の研究開発も欠かせない。こうした分野でも、日米の官民挙げての協力が要となる。とはいえ、こうした分野で技術の蓄積のある日本企業がアメリカ企業の傘下に入りつつある現状はもったいないと言わざるを得ない。日本政府による自国企業支援策の強化が望まれる。
現在、日本はアジアの近隣諸国に対し、気象海洋業務・航空気象分野・潜水医学といった分野で防災や災害時の救援活動を視野に人材育成や技術移転協力を行っている。こうした分野においても、ロボット関連技術は極めて重要な役割を果たすものと期待が高まる一方だ。原発の事故現場など危険な環境下ではロボットの活躍が欠かせない。
その反面、ロボット兵士に対する不安や懐疑的な見方も残っている。まさに、ホーキング博士が懸念するところである。確かに、瞬発力や破壊力は人間の比ではないだろうが、感情を伴わないロボットの行動には、人間らしさが欠落しているために、どのような行動をとるのか、予測不能の可能性もあり、人間のコントロールがどこまで効くものか、不安視する声が出るのも当然であろう。専門家の間では「キラー・ロボットは原爆に次いで人類を絶滅の危機に追いやる恐れをはらんでいる」との見方も広がる。
人工知能(AI)を身につけ、超人的な情報処理や瞬時の判断力は人間を上回るに違いないが、人間を超える存在になったキラー・ロボットたちが、人間を支配下に置くような想定外の行動に走る可能性も否定できないからだ。国連の場においても、キラー・ロボットの導入に関して、慎重な対応を求める声に耳を傾けるべきとの意見も出されているほどだ。
ディズニーの夢の世界でドローンやロボットと非日常的体験を楽しむのも結構だが、現実の世界にロボットが我が物顔で侵入してくる事態は歯止めをかけておく必要があるだろう。ホーキング博士に限らず、ITの先駆者であるビル・ゲイツ氏やスティーブ・ウォズニアック氏までもが「人工知能ロボットは人類の終わりを意味するかもしれない」と警鐘を鳴らしているからだ。ノーベル賞候補に名前のあがる日系イギリス人作家のカズ・イシグロ氏も同じような危機感を募らせている。
生身の兵士に代わるロボット兵士の登場は時間の問題であろう。今から備えておくべきは、そうしたキラー・ロボットに人間的感情が移植されるようになった場合、どちらが主役の座を確保するようになるか、ということだ。また、人間とロボットの一体化、いわゆるサイボーグやヒューマノイドが人類に取って代わる時代も間近に迫っているように思われる。
「人間に任せていたのでは地球環境は悪化する一方だ。今こそ、我々ロボットが地球を守るため、立ち上がらねば」という“ロボット革命”も起こるかも知れない。そうした近未来シナリオも無視できないだろう。感情を持ったロボットの研究開発も着々と進んでいる。手遅れにならないように、人類とロボットの境界線を明確化させておく必要がある。あくまで人間が主役であることを肝に銘じておかねばならない。このままではロボットに主役の座を奪われてしまう日も遠くないように感じられる。
(了)
<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選を果たした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。
今年7月にネット出版した原田翔太氏との共著『未来予見〜「未来が見える人」は何をやっているのか?21世紀版知的未来学入門~』(ユナイテッドリンクスジャパン)がアマゾンでベストセラーに。関連キーワード
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