福博の文化・芸能の拠点として世界に発信する博多座へ(中)~芦塚日出美相談役
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経営改革の火ぶたを切った自主制作への挑戦
――市民の声を受けて誕生した博多座ですが、2007~11年度は、リーマン・ショックなどの影響で、累計で15.2億円の損失を出すほど、業績が低迷します。そのようななかで芦塚相談役が、2010年6月、4代目社長に就任されました。博多座では、7年ぶりの民間人経営者となりますが、どのような経緯がありましたか。
芦塚 近年の博多座の経営悪化に対し、福岡市から、誰か民間から相応しい人はいないかという相談を受けた当時の九経連会長であった松尾新吾さんが私を推薦されたそうで、本当にびっくりしました。
博多座で開催された「福岡チャリティー歌舞伎」(2009年)※では、松尾さんととともに、歌舞伎十八番の「勧進帳」を演じさせていただきました。松尾さんが武蔵坊弁慶、私が富樫左衛門です。その弁慶問答の舞台は、尾上菊五郎さんに褒めていただきました。余談ですが、松尾さんとは、この公演直前にアフリカ出張となっており、せっぱ詰まった私達は、空港で飛行機を待つ間、待合室で稽古をしようとなりました。もちろん、本気でやりますから、周りの人たちが何事かと驚きます。すると、松尾さんが「We are Japanese Kabuki actors!We are training now!(私たちは、日本の歌舞伎俳優だ。今練習中。)」と(笑)。すると待合室は、「Oh I see」と明るくなりました。冷汗ものでしたが、良い思い出です。
――博多座の社長として行った経営改革とはどのようなものでしたか。
芦塚 まず、2011年に自主制作を行う演劇興行供給会社への転身を図りました。自分たちで演劇を作ってみなければ、その制作コストがわかりませんし、コストがわからないと価格の交渉力が弱くなります。実際に、12年9月の「北島三郎特別公演」は、本人の御人柄もありますが、共同制作によって従来よりも制作費を2割削減していただき、12年10月のコロッケ特別公演では、自主制作によって従来よりも制作費を2割強削減することができました。以来、5年間で計11作品の自主制作作品をつくってきましたが、長崎を舞台にした「水戸黄門」(13年9月公演、出演:里見浩太朗、原田龍二ほか)、山本周五郎「人ごろし」を原作にした「鷹と雀の物語」(14年4月公演、出演:前川清、武田鉄矢ほか)などは、他の劇場にも販売できました。
――全社的にコスト意識を持つことはすごく重要なことですね。また、全国に発信することで、社全体のモチベーションも上がったのではないかと思います。
芦塚 積極性が出てきましたね。そのうえで、12年度から中期経営戦略・計画を策定し、単年度の事業計画に基づいて各月の事業目標管理を実施するようにしました。創業以来17年間の興行成績などをもとにして毎月、興行収入を含めた予算計画を立てています。演目は、多様なニーズに対応しつつ、集客力と収益性が期待できるものを選び、演目ごとに興行原価と販売管理費を抑制し、収益性の確保を図っています。また、集客力と収益性が期待できる演目については興行日数を調整し、収支予算を立て、年間で黒字化を目指しています。
――収益以外で、公演企画にあたってのポイントはありますか。
芦塚 博多座では、お客さまの多様なニーズに対応し、定番である歌舞伎、ミュージカル、宝塚のほか、新ジャンル(ジャニーズなど)や芝居等、年間で各ジャンルのバランスの取れた演劇を企画します。そして、新ジャンルの開拓や演劇の自主制作、共同制作化に努めると共に、博多座以外での外部公演も展開しております。
新ジャンルでは、12年1月公演の堂本光一主演「Endless Shock」は、毎公演満員御礼となるほどの大ヒット。ジャニーズファンという新しい客層に来場していただくことができました。このほか15年8月に、地元アイドルグループによる「HKT48指原莉乃座長公演」、今年3月には、宮崎県出身のEXILE・黒木啓司プロデュースによる地元・九州を盛り上げる「九楽舞博多座」など、地域性と若年世代を意識した演目を取り入れています。
――12年度からは5年連続で黒字化を果たし、累計で5.4億円の最終利益を計上されています。経営改革が功を奏したと言えますね。
(つづく)
【山下 康太】※福岡チャリティー歌舞伎(2008年~):テレビ西日本の開局50周年記念企画として、地元財界幹部が呼びかけ人となり、地場企業約30社が参加。翌09年にも、福岡商工会議所創立130周年、福岡市の市制120周年、博多座開場10周年と記念して開催された。ルーツは、24年前(1959~85年)に途絶えた「福岡名士劇」。
▼関連リンク
・博多座<プロフィール>
芦塚 日出美(あしづか ひでみ)
1939年長崎県生まれ。九州電力(株)副社長、九州通信ネットワーク(株)(現・(株)QTnet)社長から2010年6月、(株)博多座4代目社長に就任。演劇需給会社から自主制作も行う演劇興行供給会社へ転身を図るほか、中期経営戦略・計画を策定するなどの経営改革を行い、12年度から5年連続の黒字化をはたす。今年6月に退任し、相談役に就任した。関連キーワード
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