先送りを続ける東芝経営陣 今必要なのは土光氏の決断力だ(後)
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〈役員人事に際し土光は役員候補にこう申し渡した。「君を役員に推薦したいのだが、もし役員になると家庭生活が完全に犠牲になる。その覚悟があるかどうか。奥さんとよく相談して、一週間後に返事をしてくれたまえ」
もちろん、役員候補は全員、受託する報告をした。晴れて名門東芝の取締役になれるからだ。ところが、数カ月もたたず脱落する人が相次いだ。それほど土光の“管理職しごき”はすさまじかった。〉(前出の評伝)大きな仕事を示されると、「できない、無理、難しい」と拒否反応を示し、その理由をあれこれ述べるサラリーマンは少なくない。土光氏は、個人の能力には大きな差はなく、あるのは根性と持続力の差だと考えた。
東芝のリリーフ投手を見事にやり遂げた土光氏ほど「執念」という言葉が似つかわしい経営者はいない。有名な名言を残している。「やるべきことが決まったならば、執念をもってとことんまで押しつめよ。問題は能力の限界ではなく、執念の欠如である」。
インテリ経営者ほど優柔不断で、決断と実行力に欠ける
「私はどのようなポストでも、一度引き受けたからには全知全能を傾けて全うします。それが私の流儀です」。
土光氏は、根性と執念の人だった。理路整然と卓説を論じるインテリでは、決してなかった。その地声は大きく、興奮すると机を叩くくせがあり、「怒号」と仇名された。比叡山の荒法師をおもわせる風貌は迫力満点。そのため土光氏に怒鳴られた役員たちは、みな縮み上がった。
そのため、石坂氏に推されて経団連会長になった時、インテリを自任する知性派財界人とは肌が合わなかった。モーレツ教教祖の土光氏の気迫と迫力に圧倒され、息苦しさを覚えたのだろう。「書生っぽ」と批判する土光嫌いの財界人は少なくなかったという。
そんな口舌の徒のインテリを心底嫌ったのが土光氏だ。「大学卒はろくな奴がいない。とくにエリート大学出の秀才面をしている奴がいけない」というのが本心だった。土光氏は、インテリ経営者ほど優柔不断で、決断と実行力に欠ける人種はいないと見ていた。
東芝は半導体売却を先送りして決められない。土光氏が嫌ったインテリ経営者ばかりになったからだ。土光氏の根性と執念を失ったことに根ざしているといって間違いない。
「現場を直視した土光さんの時代に戻って欲しい。」2015年6月の株主総会では、株主からこんな声が相次いだ。それから2年。東芝に染みついた決められない体質は変わることはなかった。創業以来の経営危機に陥った東芝に必要なのは、土光敏夫氏のような決断力ではないか。
(了)
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