2024年11月23日( 土 )

市民の安全を脅かす行政と大手企業 欠陥マンションをめぐる戦い(前)

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 西鉄天神大牟田線の特急停車駅である花畑駅から徒歩約7分という絶好の立地にある、1996年竣工の「新生マンション花畑西」。同マンションは、設計事務所による構造計算の偽装、施工における数々のミスが重なり、建築構造の専門家による構造検証で、国が建物を除却する際の基準とする「耐震強度50%」を大きく下回る35%であることが判明している。住民らは、施工した大手ゼネコン・鹿島建設(株)に損害賠償を求めるほか、同マンションの危険性を見過ごした久留米市の責任も追及。その戦いがいよいよ大詰めを迎えている。とくに久留米市では決して他人事ではない、この問題についてポイントを改めて整理した。

技術的反論をしない設計事務所

新生マンション花畑西

 福岡県久留米市の分譲マンション「新生マンション花畑西」(1996年竣工)は、鉄骨鉄筋コンクリート造15階建て92戸のマンション。建築主は、久留米市地場の新生住宅(株)。設計・監理は、福岡市内の(株)U&A設計事務所、(株)木村建築研究所の2社。施工はスーパーゼネコンの鹿島建設(株)。ただし、鹿島建設は、下請業者として、地場ゼネコン・(株)栗木工務店に工事を丸投げしていた。

 同マンションの区分所有者53世帯は、鹿島との調停が不調に終わった後、設計事務所2社と施工の鹿島建設を相手取り、2014年6月、福岡地裁久留米支部に損害賠償請求を提起。3年以上経過した現在も審理は続いている。

 設計事務所2社のうち、U&A設計事務所は所在不明で公示送達するも反応がなく、木村建築研究所は、設計上の瑕疵を認めたくないが技術的な反論ができないのか、「当該物件の設計には関与していない」「建築確認申請書や工事契約書に木村建築研究所の記名押印があるが、社員が無断で会社の登録印を押印したものであり、設計にも監理にも関与していない」「図面作成の一部だけを手伝った」「社員3名が工事監理に行っているが、社員が個人的に頼まれたものであり社長は知らない」などと、客観的に見て辻褄の合わない主張に終始しており、原告が指摘した設計の瑕疵について、一切、技術的な反論をしていない。

 建築確認申請書やマンション販売用パンフレットに、U&A設計とともに名前を表記されている木村建築研究所が、技術的な反論を避け、辻褄の合わない主張を繰り返す理由は、設計の瑕疵を認めざるを得ないからだ。木村建築研究所は、福岡地区の中堅の設計事務所として、数十年にわたり、マンションを中心に設計の実績を積み重ねてきた。代表者・監理建築士であった木村忠徳氏の経験も、同規模の他社の代表者と比べ遜色がないはず。それほど豊富な建築設計の経験を有する木村忠徳氏が、技術的な反論を一切できないということは、消極的ながら、設計の瑕疵をすべて認めていることに他ならない。

図面通りに施工せず開き直る鹿島建設

 施工業者である鹿島建設は、裁判の当初、「我が社は、設計図通りに施工しただけなので、すべては設計に瑕疵がある」と主張していた。しかし、下記の点において、鹿島建設は、設計図、建築関係規定に反した施工を行っていた。

(1)図面に明記されている梁が30カ所も施工されていない。

(2)鉄筋のかぶり厚が不足(極端な箇所は鉄筋が露出)しており、建築基準法施行令第79条違反。

(3)鉄筋のかぶり厚不足とコンクリート打設不良(シャブコンなど)が原因で、コンクリートの中性化が極端に早く進行している。大小無数のクラックが発生し、コンクリート片が剝落した事故も発生。

(4)コンクリート内部に、木片などの異物を混入させている。

(5)機械式駐車場のパレット落下→駐車機器は撤去され平置きに変更。

 (1)の梁を施工していないことは、明らかに、工事契約違反であり、建設業法上の行政処分の対象となるべき行為である。鹿島建設は開き直り、梁を施工していないことを正当化する主張を繰り返している。

 (5)の鉄筋のかぶり厚さ不足は、明らかに建築基準法施行令違反である。建物のごく一部での事象であれば、許容範囲という考え方もあると思われるが、このマンションにおいては、鹿島建設自らが実施した調査によって、共用部分における、鉄筋のかぶり厚不足、爆裂、コンクリートの中性化の進行が明らかになっている。鹿島建設は、調査した共用部分の一部のクラックなどの補修を行い、その費用の支払を求めて、下請の栗木工務店に損害賠償請求訴訟を提訴した(後に和解)。

 施工の瑕疵は、当然のことながら、元請施工会社の責任であるので、責任を取るべきは鹿島建設である。自らの施工品質管理能力の欠如を棚に上げ、下請に責任転嫁する姿は浅ましいとしか言いようがない。一般的な常識を持ち合わせた企業であれば、不備があれば迅速に対応するのではないか?風評被害が拡散することは企業にとっては最も避けたいことである。しかし、鹿島建設は、巨大企業の驕りからか、自らの施工の不備を正当化し、開き直っている。

(つづく)
【伊藤 鉄三郎】

 
(後)

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