市民の安全を脅かす行政と大手企業 欠陥マンションをめぐる戦い(後)
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施工能力不足の下請業者・栗木工務店
このマンションの施工において、鹿島建設の下請業者である栗木工務店は、1959年創業の地場老舗ゼネコンであり、公共工事も数多く手がけてきた。実績が申し分ないはずの老舗ゼネコンだが、このようなお粗末な施工を平然と行っていたことに、関係者の多くが驚いている。久留米地区には、栗木工務店が施工を行った建物はいくつも存在している。それらの建物に、非常に高い確率で、致命的な手抜き工事が行われているのではないか?栗木工務店の施工能力については、弊社においても、引き続き情報を収集し、調査を継続していく。なお、調査の結果、栗木工務店の施工能力の低さが判明すれば、久留米市民の安全を守る立場から情報を発信する。
裁判における鹿島の虚偽主張
鹿島建設は、前述した調査の後、共用部分の一部のクラックなどの改修工事を行っている。これは、クラック(原告の話では、隣戸まで貫通したクラックもあった)をハツり、鉄筋に防錆処理を施し、アルカリ性のモルタルで埋め戻すという作業であった。この作業をもって鹿島建設は、裁判において「共用部分も専有部分もマンション全体にわたり、鉄筋のかぶり厚の補修は完了している」などと主張したのである。
鹿島がクラックなどの改修工事を行ったのは、共用部分のうち、調査を行った箇所だけであり、塗装仕上げ部分に限っている。つまり、ボリュームの大きい専有部やタイルを張った大半の外壁については未調査であり、補修も行われていない。専有部分については、サンプルとして5戸の調査を行っただけで、サンプル以外の住戸は、補修工事どころか調査さえも行っていない。
原告側による鉄筋かぶり厚さの調査
このマンションの鉄筋かぶり厚不足箇所は、鹿島建設が行なった共用部分の一部に対する綿密な調査報告書により特定されており、写真と図および数値により不足するかぶり厚の詳細な記録が残されている(同報告書は鹿島建設よりマンション管理組合に渡され保管されている)。
一方、原告は2017年5月、調査会社に依頼し、独自に建物の鉄筋のかぶり厚検査と補修工事の実体調査を行なった。検査の結果、かぶり厚不足箇所は、原告の訴え通り、建物全体におよんでいること、しかし、それに対するコンクリートかぶり厚補修工事は、行なわれた形跡がないことが判明した。
かぶり厚補修工事が行なわれていないことを示す明確な事例の1つは、1階ピロティ部の柱である。柱の回りには、補修工事を行なう十分な空地があるが、かぶり厚補修工事は、まったく行なわれていない。さらに、同柱の寸法が、設計図の数値よりも小さいことが、今回の調査で判明している。地震時に最も耐震強度が求められる1階ピロティ柱が、コンクリートかぶり厚不足のうえ、絶対的な躯体寸法も不足しているのだ。
鹿島建設は、「すべての専有部分のかぶり厚の補修も完了しており、それを証明する証拠がある」と、裁判の席上で発言しており、裁判所から9月1日の期日前に“証拠”を提出するよう求められていた。しかし、9月1日までに提出されず、次回期日である10月20日までの提出を裁判所から念押しされた。鹿島建設が、裁判所に指定された期日に証拠を提出できなかった理由は明らかだ。「証拠が存在しないから提出できない」のである。実際に行っていない、専有部分の補修工事を証明する証拠を提出しようとするなら、「捏造」する以外に方法はない。
責任を認めない久留米市を提訴
原告の住民らは、設計事務所2社や施工業者である鹿島建設を相手に訴訟を提訴する前から、建築確認を担当した行政庁である久留米市に対して、救済を求めて協議を重ねてきた。現行の構造計算プログラムから建築確認当時の構造計算プログラムまで、何種類もの方法による構造検証を求める久留米市の要求に応じて、住民側は、構造検証結果を提出し、久留米市による精査と適切な対応を求めたのである。
久留米市が誠意のある対応をとらないため、マンション管理組合と区分所有者は、久留米市に対して、建替命令義務付け訴訟を提訴するに至った。さらに、建築確認において、不適切な設計を見逃した久留米市の責任に対する損害賠償も提訴した。1審判決は、17年4月13日に言い渡されたが、裁判所は、このマンションの耐震強度に関わる重大な係数について誤った判断(正反対の判断)を下していた。これは、保有水平耐力計算における係数の法規定を、別次元の理由により適用させないというものであり、保有水平耐力計算の結果(耐震強度)を大きく左右する重大な誤りである。したがって、原告は控訴し、現在、福岡高等裁判所で控訴審が争われている。このマンションの構造計算における法令違反は【表】の通り。
他人事ではない構造計算の偽装
このマンションの構造計算の偽装(保有水平耐力計算における係数の偽装)は、他の建築物でも判明している。たとえば、東京都の豊洲新市場の水産仲卸売場棟においても、日建設計による、久留米の偽装と同様の手口の偽装が判明している。弊社では、設計者の日建設計、建築主であり計画通知審査を担当した東京都に対して質問をしたが、いずれも回答は返ってきていない。日本最大手の設計事務所である日建設計ですら、構造計算の偽装に手を染めていたのである。
マンション管理組合側が、久留米市に救済を求めた時点で、外壁のコンクリートが剝落するなど、このマンションの居住者だけでなく、近隣に住む久留米市民にも人的被害が出る可能性がある状況になっていた。行政として市民の安全を優先的に考えるのであれば、この時点で、速やかに、現状を把握し、原因を究明し、対策を講じるべきであった。これは、行政の当然の責務である。
たとえば、自動車メーカーでは、製品に不具合が判明した場合、全国にリコールを発し、迅速に安全確保に努める。しかし、久留米市は、これと正反対に、現実に背を向け、弱者であるマンション区分所有者を、専門用語を羅列して煙に巻こうとしたり、ほぼ入手が不可能な廃盤の構造計算プログラムによる構造検証を求めたりするなど、無理難題を要求してきた。この久留米市の姿勢の背景には、建築確認審査の際に、構造計算におけるごく単純な偽装を見逃したという負い目がうかがえる。
このマンションにおける構造計算の偽装の見逃しに端を発し、久留米市が建築確認を行ってきた無数の建築物について「建築確認が不適切」という疑念が巻き起これば、全物件の安全性を改めて調査する必要が出てくるだろう。その手間を嫌がり、市民の安全は二の次で、自らの保身のみを優先しようとする久留米市には、最早、行政を担当する能力は備わっていないと断じざるを得ない。
(了)
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