トランプ大統領のアジア歴訪と習近平総書記の対米戦略(2)
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国際政治経済学者 浜田 和幸 氏
中国との関係で言えば、娘のイヴァンカさんの役割もユニークなものといえるだろう。今回、大統領の訪日に先駆け、11月3日には東京で開催される「国際女性会議 WAW!2017」に出席し、輝く女性のための基調講演を行う予定になっている。大統領選挙戦でも彼女の応援演説は多くの有権者の心をつかみ、トランプ勝利の牽引車となった。
そのイヴァンカさんは自らの名前を冠したファッション・ブランドを立ち上げている。バッグやシューズ、洋服など中国で製造しているものが多い。また、幼い娘のアラベラには中国語を学ばせており、習近平夫妻がフロリダにあるトランプ氏のリゾートクラブ「マーアラゴ」に滞在した折にも、アラベラさんが中国語の歌を披露したことで大いに場が和んだものである。
中国政府は、そうしたイヴァンカさんと夫のクシュナー氏を味方につけようと様々な働きかけを強めてきた。本年6月には、この2人をアメリカ政府の公式の代表として中国に招待するとの提案を行った。これは、ホワイトハウスや国務省とは別にバックチャンネルを作ろうとする狙いであったことは間違いない。
しかし、クシュナー夫妻はこの中国側の申し出を断った。トランプ政権が中国との関係において、正式の外交チャンネルとは別にバックチャンネルを持つことに対し、ホワイトハウスの内部で反対意見が強まったからだと思われる。と同時に、身内に「利益相反」の疑いが持たれることを大統領自身も懸念したフシがある。
というのは、イヴァンカさんが自らのブランド商品を中国で作らせていることに加えて、クシュナー氏は自らの不動産会社で開発したニュージャージーの高級マンションを中国の富裕層に販売する事業を展開しているからである。もちろん、この不動産事業はクシュナー氏本人が前面に出て行っているわけではなく、彼の姉が中心となって中国各地で不動産投資セミナーを開催する中で行っていることではある。
しかし、こうした不動産セミナーにおいて、宣伝文句として「大統領の娘婿でホワイトハウスの顧問を務めるクシュナー氏が開発した物件」ということを強くアピールしているため、アメリカ国内では「大統領を利用し、ビジネスに結びつけている」との批判が巻き起こったからである。
こうした中国とのビジネス関係が後々問題になることを危惧してか、イヴァンカさんもクシュナー氏も中国政府からの招待を断ったのであろう。この度の大統領のアジア歴訪においては、クシュナー夫妻は日本や中国には同行するものの、それ以外の訪問にはあえて同行しないことになったという。
それはあまりファミリーの存在が目立ち過ぎないようにするホワイトハウスの意向を反映したものである。しかし、中国は中国で、トランプ・ファミリーへの懐柔策をさらに加速させようとしている。というのも、今回の中国訪問を前に、イヴァンカさんの会社に対して中国政府は新たな商標登録を中国で行うことに了承を与えたからである。
その結果、イヴァンカさんは彼女のデザインした宝石やファッションにとどまらず、高級スパのサービスも中国で展開できるようになったのである。アメリカの首都ワシントンには、トランプ・ホテルが開業している。アメリカのみならず、海外にもトランプ氏が経営するホテルやリゾートそしてカジノやゴルフ場も多数存在している。
しかし首都ワシントンにそびえるトランプ・ホテルは、元々は郵便局の建物であった。ホワイトハウスと議事堂の中間に位置する、歴史あるこのビルを買い取り、豪華なホテルに衣替えをさせたわけだ。内外の観光客にとっては、トランプ大統領の名前が付いたホテルに宿泊したり、食事で訪れることはある種のステータスシンボルとして受け止められている。実際、大変な人気を博しており、ほぼ連日満室というトランプ効果抜群の成功モデルといわれる。
実は、中国人の観光客は日本のみならず、欧米にも年間1億人以上が出かけており、ワシントンを訪れる中国人観光客も年々うなぎ上りとなっている。この新しいワシントンの名所ともなったトランプ・ホテルは中国人観光客が最も多く宿泊することで知られている。
また、トランプ氏が経営するカジノにおいても、中国人ギャンブラーなくしては存在しえないほどの状況になっている。こうしたビジネス面における中国の影響力は、間接的にせよトランプ大統領の中国への姿勢に影響を及ぼさないことはないだろう。中国政府もこの点を戦略的に生かそうとし、意図的に中国人観光客をトランプ関連の施設に送り込んでいるのかも知れない。
(つづく)
<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選を果たした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。
今年7月にネット出版した原田翔太氏との共著『未来予見〜「未来が見える人」は何をやっているのか?21世紀版知的未来学入門~』(ユナイテッドリンクスジャパン)がアマゾンでベストセラーに。関連キーワード
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