トランプ大統領のアジア歴訪と習近平総書記の対米戦略(3)
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国際政治経済学者 浜田 和幸 氏
今回、北京では習近平総書記との間で首脳会談がもたれることになっているが、東京で行われる安倍首相との首脳会談と比較すれば、はるかに費やす時間も協議のテーマも深いものが想定されている。具体的には、大統領に同行する商務長官ウィルバー・ロス氏が、中国の不公正貿易を正そうと手ぐすねを引いているようだ。
元々スティーブ・バノン氏などは、「アメリカと中国が経済戦争に突入する恐れがある」と警鐘を鳴らしていた。このバノン氏も、ロス商務長官も米中経済摩擦の主な要因は中国政府や中国企業がアメリカの知的財産権を侵害していることにあるとの主張を展開している。「中国がアメリカの技術や情報を収奪している」というわけだ。
確かに、アメリカ企業が巨大な中国市場に参入する際には、中国の法律に従い、企業秘密と言われるような重要な技術を情報開示することが義務付けられていることが多い。マイクロソフトのビル・ゲーツ氏に言わせれば、「中国市場に参入したければ、中国のルールに従わざるを得ない。それが嫌なら中国市場は諦めるべきだ」。
とはいえ、そこまで割り切れるケースは限られており、結果的にアメリカ企業のかなりの部分は中国市場で苦戦を強いられているようだ。こうした状況を改善、打破することがどこまでできるのか。トランプ大統領は北朝鮮による核開発やミサイル発射を抑えるために、中国の影響力に期待を寄せている。そのため、中国とすれば、北朝鮮への圧力と引き換えに、通商面での譲歩をアメリカから引き出せると確信しているようだ。
実際、国際社会の北朝鮮に対する経済制裁はかつてないレベルと規模で進んでいるものの、北朝鮮の暴走には依然として歯止めがかかっていない。先の中国共産党大会での習近平氏の3時間半に及ぶ大演説の中でも、北朝鮮に関しては一言も言及は無かった。習近平氏がどこまで北朝鮮の金正恩委員長に圧力をかける気があるのか、大いに注目が集まっているところである。
中国とすれば、北朝鮮の核やミサイル開発は、決して好ましいものではないが、アメリカとの対立や戦争が北朝鮮の崩壊をもたらすことになれば、それはそれで中国にとっては何としても避けたいシナリオであろう。北朝鮮がアメリカとの、そして韓国、日本との緩衝地帯として存在することは、軍事上も中国にとっては欠かせない要因として受け止められている。
そのため、中国もロシアも国連安保理による北朝鮮経済制裁強化には同意したものの、徹底的に北朝鮮を追い詰めるところまでは制裁を強めていないように思われる。いずれにせよ、北朝鮮の問題は中国にとっては、アメリカとの通商問題を優位に展開する上での交渉材料として受け止めているに違いない。
その一方で中国はアメリカにおけるビジネス展開にこれまで以上に熱心に取り組み始めている。これまでは、アメリカ企業が中国進出に際し、虎の子の技術特許を開示することを求められているとし、不満の表明が相次いでいた。しかし、中国企業は様々な方法を駆使し、今やアメリカ企業が追い付けないほど、独自の技術開発を行うまでに成長した。
そのことを象徴的に示しているのが、中国の鉄道会社であろう。なんと、ボストン、シカゴ、ロサンゼルスの地下鉄で使われる新たな車両や路線の改良事業において、各々5憶ドルを超える契約をすべて競争入札で勝ち取った。中国の鉄道会社はアメリカ政府が課している「ローカル・コンテンツ法」、即ち、部品の一定割合をアメリカ国内で調達するという条件をクリアするため、中国からアメリカに生産拠点を移動させ、先に述べた地下鉄の車両生産に必要な部品をアメリカで製造することにしたのである。
しかも、従来のアメリカ製の車両と比べ、軽量化に成功しており、コストの削減と安全性の強化の面でも高い評価を得るまでになっている。こうした地下鉄の競争入札には、カナダや韓国の企業も参戦していたが、中国が競合相手を20%以上も下回る金額で落札に成功したのである。
残念ながら、アメリカ国内にはこうした鉄道事業に参入できるだけの技術を持った会社がもはや存在しない。トランプ大統領が「アメリカを再び偉大にする」との号令をかけ、「アメリカ・ファースト」を政策の中心に掲げているものの、アメリカ国内の交通インフラの整備は中国の力を借りなければならないという状況にまで、追いこまれてしまった。これが今のアメリカの実態に他ならない。
(つづく)
<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選を果たした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。
今年7月にネット出版した原田翔太氏との共著『未来予見〜「未来が見える人」は何をやっているのか?21世紀版知的未来学入門~』(ユナイテッドリンクスジャパン)がアマゾンでベストセラーに。関連キーワード
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