2024年12月26日( 木 )

トランプ大統領のアジア歴訪と習近平総書記の対米戦略(4)

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国際政治経済学者 浜田 和幸 氏

 実はこうした鉄道事業の躍進は、氷山の一角であり、様々な分野で中国企業やその技術がアメリカにおいて欠かせない役割を担うようになっているのである。シリコンバレーにおいても、ITエンジニアの大半が中国人という現象すら生まれている。自動車最大手のGMでも、オハイオ州で建設中の新たな自動車工場においては、ウィンドシールド製造に関しては中国の技術を全面的に取り入れることになった。

 要は、従来の「アメリカから中国へ」という技術の流れが、今や逆転し始めているのである。こうした状況が習近平氏の対米交渉における自信の裏付けになっているに違いない。かつての超大国アメリカは今や「アメリカ・ファースト」の号令一下、急速に内向き志向を強めつつある。

 他方、中国は積極的な対外路線を歩み始めている。その代表例が「一帯一路」政策で、別名「現代版シルクロード計画」に他ならない。言い換えれば、世界のインフラ整備に莫大な資金とアメリカを凌駕する技術を持って取り組もうとしているのである。

 この「一帯一路」計画は、アジアとヨーロッパを結ぶ新たな経済圏構想と謳われているが、すでに中国から中央アジア、ヨーロッパを経由し、イギリスのロンドンまで鉄道輸送が可能となっている。今後は、そのスピードをアップしようとの目論見が着々と進んでいる。「ブレグジット」と呼ばれるが、EUから離脱を決めたことによって、英国経済はヨーロッパから隔離される恐れが出できた。そこに着目し中国は、イギリス経済との一体化を模索し始めているのである。

 しかし、中国の「一帯一路」プロジェクトは、ヨーロッパが終着点ではない。中東からアフリカまで視野に入っているのである。それどころか、アメリカにおいてもこの中国の力を必要とする状況が生まれている。例えば、カルフォルニアの州知事ジェリー・ブラウン氏は、既に「カルフォルニアも一帯一路の一部である」と宣言しているほどである。

 陸上のみならず、海上交通路版の「海のシルクロード」、そしてインターネットを通じた「サイバー空間におけるシルクロード」の建設を通じて、中国は世界の情報、技術、物流のインフラを中国主導で塗り替えようとしているのである。

 また、このところ、ハッカーによる犯罪が急増している。北朝鮮のハッカー部隊が世界各国の金融機関に侵入し、大量の資金を強奪している模様だ。こうした状況を踏まえ、中国の習近平氏は「中国が開発した量子暗号システムをアメリカに提供する用意がある」と述べている。元々、北京とワシントンの間の通信傍受を防ぐための技術として開発されたものだが、最近急増するハッキング犯罪を機に、新たな応用面として中国発の技術をアメリカの国家の安全のために提供しようというところまで、中国は自信を深めているのである。

(つづく)

<プロフィール>
hamada_prf浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選を果たした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。
今年7月にネット出版した原田翔太氏との共著『未来予見〜「未来が見える人」は何をやっているのか?21世紀版知的未来学入門~』(ユナイテッドリンクスジャパン)がアマゾンでベストセラーに。

 
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