2024年12月23日( 月 )

耐震性に疑問、豊洲市場の黙殺された致命的な問題(4)

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協同組合建築構造調査機構 理事長 仲盛 昭二 氏

層間変形角が法令違反の設計

 設計を担当した日建設計は、層間変形角(※2)が建築基準法施行令第82条の2に定められた基準を下回っていることを認めています。東京都、JSCAも、法令を逸脱していることを否定していません。

 豊洲市場の建物のように、層間変形角が建築基準法施行令の基準を下回っていたとしても、東京都では、問題なく建築確認済証が交付され建設されていたという現実を見た場合、日建設計以外の設計事務所により設計された都内の建物も、すべて安全性を再検証しなければなりません。対象となる建物がどれほど存在しているのか、私には想像もできませんが、再検証により安全を確認しなければ、都民の不安は払拭されないでしょう。
 この問題は東京だけに限りません。首都における建築確認が、このような実態であれば、全国の行政庁による建築確認にも同様の問題が潜んでいるの可能性があります。地方自治体の出先機関である土木事務所などでは、構造の専門知識を持たない職員が構造審査を担当しているケースも多く見かけました。どこまで厳格な審査が行われていたのか、はなはだ疑問です。

※2 地震時に対する建物の水平変位を階高で割った値。建築基準法で、建物構造種別によって守らなければならない制限数値が定められている。

鉄筋コンクリート造建物においても、不正な設計が横行

 豊洲市場の鉄骨鉄筋コンクリート造建物における不正な設計について指摘してきましたが、鉄筋コンクリート造建物においても、同じように大きな問題があり、私は、再三に亘り、インターネットを通じて警鐘を鳴らしました。
 それは、「鉄筋コンクリート造の柱・梁接合部の安全確認が省略されたまま、建築確認が行われていたということ」です。
※参照(過去記事

 鉄筋コンクリート造の柱・梁接合部の安全確認は、「鉄筋コンクリート構造計算規準」(日本建築学会)に規定されており、現在の建築確認審査では、必ずチェックを受ける項目です。もちろん、柱・梁接合部の安全を確認できなければ、確認済証が交付されることはありません。先に紹介した東京都の建築確認の審査方針が真実であれば、建築基準法でない学会規準はチェックされないはずですが、現実には厳しくチェックされています。これは、学会規準の新旧を通じて不変の絶対的要素の規準なのです。

 10月30日、福岡において、構造技術者向けに、柱・梁接合部に関する講習会が開催されました。講習会において、講師である名古屋工業大学楠原文雄准教授は、「現行の接合部検討方法でさえ不十分であり、さらに厳格な検討方法の研究が進んでおり、1~2年後の鉄筋コンクリート構造計算規準の改訂に反映される見込み」「ニュージーランドでは日本の現行の検討方法よりも厳しい検討方法を義務付けている」「2007年以前に設計された、接合部の検討を省略された建物については、耐震診断に接合部の検討を追加するなどの対策を行政に具申しているが、現場レベルは理解していても上が動かない」などと、柱・梁接合部の現状について語られました。そして、熊本地震により、現実に接合部が破壊された建物の写真も紹介されました。

 建築確認審査において、柱・梁接合部に関するチェックが厳格に行われるようになったのは、07年の建築関係規定の改正以降です(学会規準は、その前から存在)。
 つまり、07年以前に建築確認された建物の大半は、建築確認において、柱・梁接合部の安全をチェックされておらず、設計における検討自体行われていなかったのです。設計者が検討を怠った理由は、検討を行えば部材の断面(寸法)を大きくしなければならず設計に与える影響が大きくなるからです。建築確認審査でチェックされないことを良いことに、不正な設計が横行していたのです。
 柱・梁接合部の検討が省略された建物の安全性を確認するためには、建物の設計に関して再検証をする必要があることは、先の問題と同じです。対象となる時期の建物のうち、8割程度の棟数が、検討を省略されていたと考えられ、再検証をすれば20%前後の構造耐力の不足が想定されます。

 日本建築学会の規準に定められている「柱・梁接合部の検討」を意図的に省略した設計が横行し、審査をした行政庁が黙認していたという事実は、建築基準法第6条に定められた建築確認制度の否定でもあります。
 建築基準法は、構造計算の細部まで具体的に規定をしている訳ではありません。基準法を補い、具体的な数値や方法を示している存在が、建築規準法施行令や告示、日本建築学会の「鉄筋コンクリート構造計算規準」などの規準です。そして、鉄筋コンクリート構造計算規準は、実験や研究に基づく具体的な数値や方法を示しており、鉄筋コンクリート造の構造計算における教科書的な存在であることは、建築構造設計に携わる者であれば誰もが認識していることであり、これを否定する技術者(設計者も審査側も)は、いないはずです。
 ここに挙げた問題点は、我が国の建築確認における深い闇の部分です。この闇を公表すれば、多くの設計者や行政に多大な影響を与えることが明らかであるため、誰も声を上げる勇気がなく、また、一部の建築関係者や行政の担当者以外は知らないことですから、今日まで一般社会に知られることもなかったのです。しかし、建物の耐震性能に重大な影響があり、人命にも関わることを、建築業界の安定だけを考え、誰もが黙っていて良いものなのか? 行政庁や建築設計者が共犯者となり国民を騙し続けていて良いことなのか?
 これらの疑問に対して、長年建築の構造設計に携わってきた者として熟慮の末、国民の多くが関心を示す豊洲市場の構造の欠陥を取り上げ、鉄骨鉄筋コンクリート構造における問題点と、これとは別に、鉄筋コンクリート構造において広く見受けられる問題点を指摘しました。
 悪しき慣行がまかり通る建築業界に対して、自分にできることがあればと思い、構造の専門家として勇気を出して提言した次第です。

(つづく)

 
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