今、小売業に何が起きているのか チェーンストアの歴史と現在地(1)
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さまざまな生命が生まれては滅亡し、また多くの文明が誕生しては終焉を迎えた。長い間ほとんど変化とはほぼ無縁だった小売業に、人類登場よろしくスーパーマーケットなどのチェーンストアが誕生したのはつい100年ほど前である。それからというもの小売業界は極めて大きな変化を始めた。こうして起こった地殻変動は今も轟々と続き、かつて一世を風靡したスーパーマーケットすら新しい商流に押し流されようとしている。
異端者が世界を変える
2017年は日本の家電メーカーにとって、象徴的な年になるかもしれない。敗戦後、国の復興の中心となった大手家電メーカーが今、大きな苦境を迎えている。しかも、例外なく……である。
原発と粉飾で今や風前の灯といっていい東芝を始め、NEC、パナソニック、ソニー、日立。いずれも以前の栄光とは程遠い業績に喘いでいる。このなかで10年後、何社が残っているかは誰にもわからない。わかっていることはどの巨大メーカーも過去の生産手段での復活はないということである。
1990年代末、(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)の本部を訪ねたとき、創業者の増田宗昭氏が顔合わせの挨拶後、いきなりGE、GM、エクソンモービルなど大手自動車メーカー、製造業、そして石油メジャーの名前を口にした。
その後、彼が言ったのは「これをどう思います?」だった。一瞬あっけにとられたが、「世界の売上上位企業ですね。それが何か?」と応じた。しばらくの沈黙の後、「そうです」と増田は応えた。彼が言いたかったのはサービス、流通業がベスト10に1社も入っていないということだった。現在、売上規模世界一のウォルマートも当時急成長でそれなりの注目を集めてはいたが、それでも増田が口にした業態に比べればその印象は薄かった。彼は自分の会社をそれらの企業に比肩する規模に育てたかったに違いない。
それから四半世紀。当時の時価総額トップ10の顔触れは大きく変わった。金融や自動車、石油に代わってアップルやアルファベット(Google)、マイクロソフト、アマゾン、フェイスブック、テンセント、アリババ。まさに業態様変わりである。
ちなみに我が国では89年の時価総額上位はNTT、住銀、興銀、第一、富士、IBM、三菱、東電、三和、トヨタなどであった。
現在ではトヨタ、ソフトバンク、NTT、NTTドコモ、三菱東京UFJ銀行、KDDI、JT、ゆうちょ銀行、三井住友銀行、任天堂と続く。統合、合併を繰り返した銀行を除くと通信系の企業の躍進が目立つ。
同じような栄枯盛衰は流通業界にも見られる。ダイエー、西友、ニチイ、長崎屋、壽屋など、1980年代に一世を風靡した大手小売業がそう長くない期間に相次いでその姿を消している。
誕生当時、彼らは小さく、異端であり、非常識だった。それゆえに既存の業態は彼らがごく短期間で手のつけられない存在になることなど想像さえしなかった。そして短い期間にほとんどの従来業態は彼らの軍門に下った。しかし、その革新者たちもいつの間にか保守不変の軌道に自らを固定し、その行く手を自ら閉ざすことになる。当初、「今年は悪かったから、来年は大丈夫」という考え方が業界では一般的だった。たしかに当初はそんなことがなくもなかったが、その手段が強引な価格訴求、つまり安売りである。しかし、高度成長期は売上だけでなく、人件費を中心に営業コストも跳ね上がる。当初、20%を切っていた経費率は賃上げと店舗建設、設備コストの上昇で瞬く間に30%に近づいた。そうなると従来の安売りでは経費が賄えない。そのことが最悪の手段を選択することになる。
(つづく)
<プロフィール>
神戸 彲(かんべ・みずち)
1947年生まれ、宮崎県出身。74年寿屋入社、えじまや社長、ハロー専務などを経て、2003年ハローデイに入社。取締役、常務を経て、09年に同社を退社。10年1月に(株)ハイマートの顧問に就任し、同5月に代表取締役社長に就任。流通コンサルタント業「スーパーマーケットプランニング未来」の代表を経て、現在は流通アナリスト。関連記事
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