2024年11月24日( 日 )

「コレクション」は資本主義そのもの

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 11月15日に米ニューヨークで行われたオークションで、キリストが描かれたレオナルド・ダビンチの作品「サルヴァトール・ムンディ(救世主)」が美術品として史上最高顔となる4億5,030万ドル(約508億円)で落札された。美術品の価格でこれまでの最高だったゴーギャンの「ナフェア・ファイ・イポイポ(いつ結婚するの)」約355億円を大きく上回った。約1カ月後の12月13日(水)に東銀座松竹スクエア13Fの会議室において、『コレクションと資本主義』(水野和夫&山本豊津共著・角川新書)の出版記念対談が開かれた。資本主義の価値創造という性質は「蒐集」概念を通して最も先鋭的に美術品(絵画など)に現れるという。会場には師走の忘年会シーズンにも拘わらず約100名のファンが参集した。

異色の組み合わせ

左から、山本豊津氏と水野和夫氏

 水野和夫氏は経済学者(法政大学法学部教授)、山本豊津氏は美術商(東京画廊社長)である。一見異色と思える組み合わせだが、水野氏は芸術に興味があり造詣も深く、一方山本氏は元大蔵大臣村山達雄氏秘書の経験もあり経済に明るい。

 水野氏は、これまでの著書で「ゼロ金利、さらにはマイナス金利までつけた日本を筆頭に世界の資本主義は終焉を迎えている。その理由は、拡大再生産を大前提にしている資本主義で金利がゼロになるということは、資本の次の投資先=フロンティアがない、もはやそれが望めないことを表明している」と主張している。一方、山本氏は、前著『アートは資本主義の行方を予言する』(PHP新書)で、「絵画が資本主義の“価値と価格のパラドックス”を体現している」ことを初めて明らかにした。

 対談はマイアミ・ビーチ「アートバーゼル」に出店、帰国されたばかりの山本氏が美術史およびその世界を現在~過去~未来へと語る中で水野氏が資本主義との関係をコメントするかたちで進められた。

蒐集と収集の違い

 本書のタイトルであるコレクションは「蒐集」と訳される。蒐集とは、単に集める「収集」とは微妙に違い「自分たちの価値基準に応じて分類し、選別しながら集める」意味をもつ。
 水野氏は「蒐集は資本主義そのもの」であると言い、山本氏は「資本主義が誕生した背景には西欧の蒐集概念がある」という。そしてこれは帝国主義の世界支配とも関係する。

 蒐集の概念は、遡れば、その始まりは「ノアの箱舟」に行き着く。その後、キリスト教は「人々の魂を蒐集するシステム」を編み出し、一方で資本主義は「モノやお金を蒐集するシステム」を編みだした。近代都市にいけば必ずある「動物園」「植物園」(とくにイギリス・ロンドンにある王立植物園「キューガーデン」は象徴的)「美術館」「博物館」など、現代の私たちが教養や娯楽の殿堂と考えている施設はすべて、それらが誕生した西欧では「蒐集」が根本思想にあった。

 山本氏が言及した、蒐集した後の美術品をどう取り扱うかについての日本と西欧の違いは面白い。
 西欧では、「それらを一般に公開することで、所有している自分の立場と力を誇示する」。一方で日本の美術商には逆に「広く他人に見せないことで、価値が上がると考える」傾向があるという。

蒐集と世界の事件

 水野氏は、興味深いことに、本書でここ10数年の大事件の多くを過剰な蒐集の限界が原因であることを説明している。

 9.11(アメリカ同時多発テロ):アメリカが過剰に富や利権を蒐集した結果、収奪された第三世界がテロリズムいうかたちをとって反撃に転じた。

 9.15(リーマン・ショック):金融工学によってレバレッジをかけ、CDS(クレジット・デフ
ォルト・スワップ)などの金融派生商品を駆使し、過剰に資本を蒐集した結果、バブルが
弾けた。

 3.11(東日本大震災):資源を持たない日本が原子力エネルギーを過剰に蒐集した結果、
「想定外」といわれる地震と津波によってそれらが破綻した。

(『コレクションと資本主義』72頁から)

アートと資本主義

 山本氏は、今アートの中心は再びヨーロッパに戻っているという。毎年6月にスイスのバーゼルで行われる世界最大のアートフェア「アートバーゼル」には、世界中の画廊が約300軒出店し、世界中からコレクターが集まる。さらにアートバーゼルが面白いのは、次のマーケットを意識していることだ。その1つが、メキシコなど中南米・北米市場を意識したマイアミ・ビーチ「アートバーゼル」であり、もう1つは、中国の富裕層などアジア市場を意識した香港「アートバーゼル」である。

 この話を受けて水野氏は、債権国(支配者)、債務国(被支配者)の関係を演出するのには銀行、しかも国際銀行が必要であると説いた。そして、スイスのバーゼルには国際決済銀行(BIS)があり、アメリカには国際通貨基金(IMF)があり、ちょうど香港「アートバーゼル」が生まれた時を同じくして、中国にアジアインフラ投資銀行(AIIB)ができたことを披露した。ここでも見事に、コレクション(アートなど)の動きと資本主義はつながっている。

 資本主義は終焉しているのではないかと言われて久しい。その間先進国は、あの手この手を使って、経済成長を何とか延命させようとしてきた。しかし、それも限界かもしれない。今米欧の銀行は「量的緩和」の出口へと動き始めた。日本だけが、出口に背を向けエンジンをふかし続けている。コレクション(アートなど)の動きが、何か資本主義の未来にヒントを与えてくれるのだろうか。興味が尽きない、面白いテーマである。

【金木 亮憲】

 

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