2024年11月13日( 水 )

トランプ政権下でいよいよ本格化した官僚機構の反乱(6)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

SNSI・副島国家戦略研究所 中田安彦
2017年12月11日

 10月末と12月1日に相次いで逮捕された、ポール・マナフォートとマイケル・フリンは、もともと問題のある人物だった。マナフォートは選挙戦のさなかからロシアやウクライナの親ロシア派の大統領とのつながりが指摘されていた人物だし、フリンもプーチンと接近してロシアに食い込んだり、トルコのエルドアン政権に食い込んで防衛や資源コンサルティングのビジネスをやっていたりした人物だった。マナフォートを連れてきたのは、非主流派のネットメディアの人気者であったアレックス・ジョーンズと親しいロジャー・ストーンという人物。ストーンはニクソン政権以来ずっと共和党系の汚れ政治工作をやってきた、一種の「政治ゴロ」だった。マナフォートがトランプタワーにコンドミニアムの部屋を持っていたことも理由の1つだったらしいが、もともと「汚れ仕事担当」だったのである。

 共和党の候補者指名を争う予備選挙で、トランプが他の候補と党大会本番で代議員数を争うことになった場合に、マナフォートに裏工作をさせようという狙いがあった。だから、トランプが党大会前に勝利を確実にした段階で不要になった人材だったわけだ。

 マナフォートやフリンは自らが手がけるビジネスで弱みを握られているようなので、ロシア疑惑を捜査するロバート・ミュラー特別検察官に対して司法取引に応じ、トランプに不利になる証言を行うかもしれない。ただ、マナフォートはマネーロンダリングの容疑もあるうえ、ロシア側を擁護する新聞のコラムを偽名で書いていたことも浮上し、追及の手はますます強まるだろう。ロシア疑惑はトランプ追及という目的もあるが、同時にアメリカに潜り込んだロシアの政治工作員をあぶり出すという一罰百戒の目的もある。

 一方のフリンだが、彼は自分のほかに息子の方も捜査の対象になっている。息子を助けるためには捜査協力するしかないと観念したようだ。さらに、トランプ選対のほかのメンバーだった複数の人物が将来政治ビジネス絡みの不正を追求され、検察側証人としてトランプに立ちはだかる可能性もある。すでに主流派メディアはエネルギーなど政策部門ごとに選挙でアドバイザーをしていた疑惑の人物の名前を出している。

 ただ、今のところ、直接的にロシアとトランプが結託/癒着(コルージョン)しているという決定的な証拠が出ない。だから、ミュラー検察官は、トランプがロシア疑惑に関して、FBIの捜査を妨害したという容疑(司法妨害)や、嘘の証言をした(偽証)の2つの容疑にはめ込もうとしている。これについては、マナフォートもフリンも同じ容疑だ。政治ビジネス絡みの件は大目に見て、表向きは「ロシア側の接触について捜査当局の調べのときに嘘をつきましたね」という偽証罪で逮捕して司法取引に応じさせるわけだ。

 さらにターゲットとしてミュラーが狙っているのは、トランプの長男であるドナルド・トランプ・ジュニアと、イヴァンカの夫であるジャレッド・クシュナー上級顧問だ。トランプ自身も、ロシア疑惑絡みの報道が出ると感情的になってツイッターで反論するが、この内容自体も、場合によってはこれまでの釈明と違うではないか、といわれることも可能性としてありうる。つい最近もフリンの起訴後に、トランプがこれまでの説明と異なり、コミーFBI前長官に対して、「フリンの捜査をやめてほしい」と要求した時点で、フリンがFBIに嘘の供述をしていたことを知っていたかのようなツイートをしていた。最終的にはトランプの弁護士の書き間違いとして処理されたが、こういうチョンボが命取りになることもある。

 ロシア疑惑追及は権力闘争なのだ。官僚機構はトランプを仕留めるまで、その手を緩めることはないだろう。この権力闘争でネオコン派側が優勢になると、政権のパワーバランスが一気に軍事介入派に傾く。北朝鮮、イラン、そして中国に対するアメリカの政策変更にもつながる可能性があるので、日本にとっても無関係ではない。

(了)

<プロフィール>
nakata中田 安彦(なかた・やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。

 
(5)

関連キーワード

関連記事