裁判例に学ぶ労働時間管理(5)~ヒロセ電機事件(後)
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残業時間確定のための書式
前回に引き続き、ヒロセ電機事件(会社の主張がすべて認められた事件)を紹介します。具体的には、労働時間を管理するために使用されていた「時間外勤務命令書」という書式について、どのようなものでどのように使用されたものであったかを見ていきます。
結論からいえば、この書式は(1)従業員による残業の事前申請、(2)上司による承認・修正・命令(許可)、(3)残業の実施、(4)従業員による残業時間の報告、(5)上司による確認、(6)従業員による確認・押印という過程を経て、1回分の残業時間を確定するために使用されています。時間外勤務命令書
裁判例は、時間外勤務命令書について「被告の就業規則70条2項、71条によれば、被告が従業員に対して、時間外勤務を命じる場合には、その都度、所属長が対象となる従業員の氏名、時間数および理由を記載した会社所定の『時間外勤務命令書』に、記名捺印の上、事前に当該従業員に通知することになっている」と認定しています。
さらに、裁判例は、その運用について、「そして、実際の運用として、原則として夕方(午後4時頃)、従業員に時間外勤務命令書を回覧し、従業員に時間外勤務の希望時間および時間外業務内容を記入させて本人の希望を確認し(略)、所属長が内容を確認し、必要であれば時間を修正したうえで、従業員に対して時間外勤務命令を出すこと、従業員は、時間外勤務終了後、所定の場所に置いてある時間外勤務命令書の『実時間』欄に、時間外勤務に係る実労働時間を記入すること、所属長は、翌朝、『実時間』欄に記入された時間数を確認し、必要に応じてリーダーおよび従業員本人に事情を確認し、従業員本人の了解の下、前日の時間外労働時間数を確定させ、確定後、従業員が『本人確認印』欄に押印していたことが認められる」と認定しています。
裁判例の認定のポイント
残業代は、最大2年間遡って従業員から請求を受けることとなりますので、裁判所も曖昧な人間の記憶を基に2年前の労働時間を認定することはできません。
しかし、在職中に残業代(労働時間)をめぐって裁判を起こすかどうかわからない時点で、会社が確定した労働時間を従業員が認めたという事実があれば、裁判所もそれとは異なる労働時間を認定することは困難です。
そのため、残業を行った従業員本人が、時間外勤務命令書に押印を残している点が重要な意味を持ちます。裁判になれば、誰でも自己にとって不利なことを認めようとしません。時間外勤務命令書の押印は、従業員が、自己にとって有利となるか不利となるかわからない時点でその内容を認めたものと判断されますので、この点が裁判所にはとくに評価されたものと思われます。ルールの明確化と具体的な運用
かねてから、事前申請と許可制により残業の実施自体を管理し、それにより残業の削減を図ることが推奨されることがありました。しかし、導入はしたものの、その運用が形骸化するなどして、その結果従業員から残業代を請求されるケースが多く見られます。この裁判例からは、事前申請と許可制を導入したうえで、残業があるたびに従業員と会社でその時間を確認するという、ルールの明確化と具体的な運用の重要性が理解できます。
(つづく)
<プロフィール>
中野 公義(なかの・きみよし)
なかのきみよし弁護士事務所
1977年4月生まれ。労働基準監督官、厚生労働省本省(労災補償、労使関係担当)勤務の経験から、労働事件に精通している。
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