裁判例に学ぶ労働時間管理(8)~自作メモは認められるか
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これまでは、会社などに保管してある記録に基づいて労働時間が認定される場合を中心に見てきました。それでは、会社ではなく、従業員が自ら時刻を記録したメモなどによって、裁判所は労働時間を認定することがあるのでしょうか。
基本的には信用できない
従業員作成のメモというと、たとえば、従業員が個人的に使用する手帳に、始業終業時刻を記載していたりする場合です。
営業職である従業員が手帳に労働時間をメモしていた場合について「ところで、原告が自己の労働時間をメモしていたと主張する手帳を提出しているが、原告主張の労働時間が記載されている日は、ごくわずかであり、このようなごくわずかな日数の労働時間の記載をもって、原告の主張を根拠付けることはできないといわざるを得ない」(2012年3月9日大阪地裁判決)と述べ、手帳からは労働時間を認定しませんでした。
また、経理職の従業員が作成していた記録(ワークレコード)について、「前記ワークレコードは、原告が、自らの備忘録として作成していたものであって、被告においてその存在を認識していたものではないことが認められる上、……いずれにしても的確な裏付けを欠くというほかなく、採用することができない」(13年10月4日東京地裁判決)と述べています。
このように、従業員が自ら作成した記録からは、基本的には、労働時間を認定することはありません。自分に有利な証拠を従業員本人が作っても信用されないことは当然のことといえます。
会社が保管する場合は異なる
最も、時刻を記録したのが従業員だからといって、いかなる場合でも、労働時間が認定されないかというと、そういう訳ではありません。
従業員が、会社に提出した出勤簿とは別に自ら作成して保管していた出勤簿を有していた場合について、自ら作成保管していた出勤簿の信用性は否定されましたが、会社に提出された出勤簿に基づき労働時間が認定されました(13年7月23日東京地裁判決)。この裁判例は、会社が労働時間を管理する目的で保管している以上、それにより労働時間が認定したものといえます。
残業認証レコーダー
従業員が退社時間を記録するのは、労働時間に関する証拠が会社に偏在していて、その持ち出しが困難だというのが主な理由です。
そのようなこともあり、弁護士(私の同期です)が設立した、(株)日本リーガルネットワークは、従業員自らが労働時間を記録することをサポートするために、スマートフォン向けアプリ「残業証拠レコーダー」を作成しました。携帯電話のGPS機能を用いて、その従業員の位置情報と勤務場所の位置から、会社にいた時刻を第三者として記録・保管するものです。
GPS機能を使用し、第三者がその記録を管理することからすれば、従業員が手帳に書き留めたメモと異なり客観性があり、裁判所にも信用される可能性が高いと思われますが、従業員がそのようなアプリのお世話(?)にならないでいいように、適切な労働時間の管理を行いたいところです。
(つづく)
<プロフィール>
中野 公義(なかの・きみよし)
なかのきみよし弁護士事務所
1977年4月生まれ。労働基準監督官、厚生労働省本省(労災補償、労使関係担当)勤務の経験から、労働事件に精通している。
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