2024年12月27日( 金 )

今、小売業に何が起きているのか チェーンストアの歴史と現在地(2)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

 さまざまな生命が生まれては滅亡し、また多くの文明が誕生しては終焉を迎えた。長い間ほとんど変化とはほぼ無縁だった小売業に、人類登場よろしくスーパーマーケットなどのチェーンストアが誕生したのはつい100年ほど前である。それからというもの小売業界は極めて大きな変化を始めた。こうして起こった地殻変動は今も轟々と続き、かつて一世を風靡したスーパーマーケットすら新しい商流に押し流されようとしている。

安売り競争の果ての「カジュアル化」志向

 その当時、バイヤーは問屋、メーカーを回り、その在庫を見て価格交渉をした。とくに地方の大手小売企業は中央の売れ筋情報を仕入れ業者に頼り、さらに売れ残りを安く仕入れて、もっと安く売るということを普通に繰り返していた。メーカーや問屋も小売の要求に応えるように、同じように売れ行きの良かった商品を晩期に大量に安く売るということを繰り返した。その結果、発生したのが極端な値下げである。大手スーパーの衣料品売り場では1万円の商品がある日いきなり5,000円になるということが普通になった。もともと3,000円で販売する原価の商品に5,000円と表示し、それを横線で消して3,000円と表示し、いかにも割安のように表示し販売することも日常になった。最初は目論見通りお客が買ってくれた。しかし、半額になるというのは財布の中のお金の価値が2倍になるということである。それが常態化するとお客は通常価格で買うのがバカバカしくなる。しばらくしてお客の口から出たのは「この半額、さらに半額になるのはいつ?」という言葉だった。そのうち、メーカーも採算悪化でやみくもに量をつくらなくなり、小売側はシーズン末に残品を大量に安く仕入れ販売するという手法がとれなくなった。

 さらに消費者の嗜好も変化した。そのなかで最大のモノが「カジュアル化」である。カジュアルとい言葉は65年ごろには若者の話題に上っていたが、それから十数年の間に一般化し、85年ごろにはその流れが加速した。その影響で、スーツやワンピース、コートなどの重衣料といわれる分野が極端な不振に陥った。

 そこに台頭したのがユニクロやしまむらといった高付加価値カジュアル衣料や、低経費ファッション、いわゆるファストファッション企業である。彼らは、従来型のファッションや提供スタイルを変えることで、それまで不人気だった中国産などの海外製造の商品のデメリットを打ち消すことに成功した。消費市場の変化も彼らに味方した。高価なものを長く大切に着こなすという従来型の消費は、手ごろな値段のファッションを高い頻度で買い替えるというかたちに変わった。さらにネット通販が市民権を得るようになると日本型大型店の存在はますます希薄になった。かつて、日本型GMSといわれた大型小売業で何とか命脈を保っているのはわずか2社であり、その収益構造はスタート時の業態とは違った業態である。彼らは巨大ではあるが、今やモノの販売では利益を出せないでいる。一度流れが変わると、もとのかたちで復活するのは容易でないことを物語る。

(つづく)

<プロフィール>
101104_kanbe神戸 彲(かんべ・みずち)
1947年生まれ、宮崎県出身。74年寿屋入社、えじまや社長、ハロー専務などを経て、2003年ハローデイに入社。取締役、常務を経て、09年に同社を退社。10年1月に(株)ハイマートの顧問に就任し、同5月に代表取締役社長に就任。流通コンサルタント業「スーパーマーケットプランニング未来」の代表を経て、現在は流通アナリスト。

 
(1)
(3)

関連記事