日本は海洋資源大国 カギはメタンハイドレート(3)
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国際政治経済学者 浜田 和幸
こうした動きに「遅れてはなるまい」と、急速に開発競争に加わってきたのが中国である。石炭を多用するため環境問題や健康被害が深刻化する中国では習近平国家主席が「人民の健康を取り戻す」と号令をかけ、クリーン・エネルギー開発に邁進している。メタンハイドレートへの関心も高い。
2017年5月、日本が採取に成功したのと機を同じくし、中国の国土資源省は南シナ海での採取に成功したと発表。中国政府は「2030年までの商業化を目指す」との打ち上げ花火も同時点火。日中間で、新たな資源開発レースに拍車がかかることになりそうだ。
中国が試験採掘を行ったのは東シナ海で中国本土からは約300キロの距離がある。その海域で水深1,200mを超える海底での実験成功だという。8日間連続で採掘を実施し、12万m3を採掘した。これだけ連続で安定した採掘に成功した事例は世界でも初めてのこと。残念ながら、日本の場合は成功と失敗が交互に発生しており、採掘作業の安定性に課題が残されている。
中国が後発ながら日本を追い抜いたとの印象を与えているが、採掘現場となった東シナ海は中国の領有権が確立したとは言いがたい場所である。ベトナムやフィリピン、マレーシアなど周辺国との緊張関係が続いており、アメリカ曰く「当該地帯は国際海域であり、中国の独占的資源開発の動きは国際法に反する可能性がある」と注意を喚起しているほどだ。
ただでさえ、中国は南シナ海の岩礁を埋め立て、人工島を次々と建造し、恒久的な軍事基地化しているとの指摘も出ているほどである。要は、中国は自国の軍事、エネルギー両面での安全保障を高めようとしているに違いない。アメリカの軍事専門家の間では「中国は“刺客の杖”と呼ばれる秘密計画を進めており、南シナ海からアメリカを排除しようと目論んいる」との観測がもっぱらとなっている。
たしかに、南シナ海は海洋資源の宝庫でもあり、メタンハイドレートに限っても、中国の必要とする天然ガスの130年分以上が埋蔵されている模様である。中国が必死になり、岩礁の埋め立てを加速し、人工島を増やしているのも、そうした資源の開発拠点にしたいとの深謀遠慮のなせる技かもしれない。
しかし、中国が必死になって埋め立てを進めれば進めるほど、アメリカとの緊張関係は高まるに違いない。中国によるメタンハイドレートの試掘成功のニュースが流れると同時に、アメリカ海軍はアーレイバーク級の誘導ミサイル装備の駆逐艦を現場海域に派遣した。ミスチーフ礁を始め南シナ海に中国が相次いで建設している人工島の周辺ではアメリカとの対立が過熱しつつある。
これは日本にとっても危険な兆候といえよう。なぜなら、南シナ海は日本にとっては死活的な重要性をもった国際航路であるからだ。万が一、そうした海域で軍事的衝突が起これば、日本が依存する中東地域からの石油や天然ガスのタンカーの運航が危機にさらされ、日本の安全保障にとっても由々しい事態になるからだ。米中の軍事的緊張がこれ以上高まらないようにするためには、国際的な資源の共同管理や開発のスキームを推進することが欠かせない。
(つづく)
<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選を果たした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。
今年7月にネット出版した原田翔太氏との共著『未来予見〜「未来が見える人」は何をやっているのか?21世紀版知的未来学入門~』(ユナイテッドリンクスジャパン)がアマゾンでベストセラーに。関連キーワード
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