日本は海洋資源大国 カギはメタンハイドレート(4)
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国際政治経済学者 浜田 和幸
その点、日本近海に存在するレアアースを含む泥は注目に値する。レアアースとは高性能磁石に使うネオジウムやジスプロシウム、発光ダイオード(LED)用のイットリウムが知られる。他にも燃料電池に使われるスカンジウムも有望な海底資源である。
実は、日本近海に限らず、南太平洋のタヒチ沖やハワイの沖合でもレアアースを大量に含む泥の存在が明らかになっている。海水の中に溶けていたレアアースが海底から噴き出す熱水に含まれる鉄分や海生生物に吸着され、こうした沖合の海底に堆積したと見られる。
同様の発見が小笠原諸島・南鳥島の沖でも発見された。2012年のことである。間違いなく日本の排他的経済水域の内側での発見だ。東京大学の加藤泰浩教授によれば、「水深5,700mの海底にあるが、レアアースの濃度は陸地の鉱山で見つかるものより30倍以上もあり、世界最高の品位といえる。商業的な採掘が待たれる」。
すでに調査用に採取したレアアースの泥からはイットリウムやセリウムが精製され、白色LEDがつくられた。海底のレアアース泥から商業用の製品ができたのは初めてのこと。今後、こうした素材が大量に採取できるようになれば、日本は新たなビジネスを創造できるに違いない。日本には海底の広い範囲から必要な泥を集め、海面まで引き上げる技術の蓄積がある。港湾のしゅんせつや海底油田の掘削で活用してきた既存の機械や技術が生かせるのが日本の強みであろう。日本の誇る海底深部の探査船「ちきゅう」も大いに活躍できるはずだ。
これからは電気自動車や燃料電池の時代である。そうなればレアアースの需要は飛躍的に伸びるだろう。現在、日本政府は海底掘削やエンジニアリングで実績のある企業20社超とも協力体制を組んで、開発計画の作成に取り組んでいる。2023年には実際の引き上げ作業を開始するのが目標である。
メタンハイドレートもレアアースも「海からの贈り物」。海洋環境を守りながら、世界のエネルギー需要を安全に満たす方策を見出す必要がある。中国は習近平国家主席の肝いりで「現代版シルクロード」計画を進めている。アジアとヨーロッパをつなぐインフラ整備が主眼であるが、同時に「海のシルクロード」計画も提唱。インドを始め、アジア各国とも交易を通じた「win-winな関係」を目指すと宣言している。
であるならば、メタンハイドレートの共同開発をその柱に据えてはどうだろうか。技術的には世界の最先端を走る日本である。インドやアメリカとも共同開発がスタートする2018年。折しも、日中平和条約締結40周年でもある。尖閣諸島問題という「海の対立点」を克服するうえでも、国際的な海洋資源開発という平和なイニシアティブを日本が推進することが望まれる。
実は、この尖閣諸島周辺こそメタンハイドレートや海底油田の最大の宝庫なのである。日本にとっても中国にとっても知恵の働かせがいのある海域に他ならない。潜水艦や戦艦による侵犯騒ぎを鎮めるためにも、政治的トップ同士の胸襟を開いた対話による解決策を見出す時であろう。「対決の海」を「共存の海」に変える。その決断と具体的行動が待たれる。
(了)
<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選を果たした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。
今年7月にネット出版した原田翔太氏との共著『未来予見〜「未来が見える人」は何をやっているのか?21世紀版知的未来学入門~』(ユナイテッドリンクスジャパン)がアマゾンでベストセラーに。関連キーワード
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