2024年11月20日( 水 )

今、小売業に何が起きているのか チェーンストアの歴史と現在地(5)

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 さまざまな生命が生まれては滅亡し、また多くの文明が誕生しては終焉を迎えた。長い間ほとんど変化とはほぼ無縁だった小売業に、人類登場よろしくスーパーマーケットなどのチェーンストアが誕生したのはつい100年ほど前である。それからというもの小売業界は極めて大きな変化を始めた。こうして起こった地殻変動は今も轟々と続き、かつて一世を風靡したスーパーマーケットすら新しい商流に押し流されようとしている。

市場を創造する

 市場とは潜在する消費者ニーズを顕在化させることである。携帯電話がいい例だ。顧客はメーカーに直接、携帯電話をつくるように要望はしない。しかし、実際に携帯電話が市場に登場すると、あっという間に固定電話や公衆電話は消えていくのである。テレビ、新聞も同じで、一度大きな流れが変わるとどんな努力をしても過去のかたちを取り戻すことはできない。

 考えてみれば、日本では食品の宅配はかなり以前から存在した。青果店や酒屋などの個人商店の店主や従業員がお得意様の自宅を訪問し、調味料や生鮮品などの注文を受け、それを届ける「御用聞き」である。しかし、共稼ぎの増加で在宅の専業主婦が減ったことや、身近な場所に品ぞろえの良い店ができたことなど、流通が近代化するに従って姿を消した。

 その間、非食品の通信販売はそれなりの成長を続けたが、食品の宅配はなかなかうまくいかなかった。とくに生鮮食品は品質や鮮度の問題で、幾多の企業が挑戦し、そして挫折を重ねた。

通販を変えたアマゾンとEコマースの出現

 ところが1995年、ジェフ・ベゾスがインターネット書店アマゾンを創業してから通販の世界が大きく変わり始める。その大きな原因はツールの転換である。それまで主流だったカタログや新聞などの印刷物に、インターネット通販(Eコマース)が加わった。

 インターネットの特徴は既存ツールとは比べ物にならない利便性と商品比較の容易さ、取扱商品のアイテム数にある。パソコンやスマホの普及と宅配送の一般化が重なってEコマースは急激な拡大を始めた。Eコマースの歴史のなかで際立って注目されるのはやはりアマゾンである。アマゾンは複数のM&Aやリストラ、株価下落などの幾多の試練を経験し、試行錯誤を重ねてとんでもない企業に成長した。

 その特徴は業種をまたいだ販売戦略にある。当初の書籍に始まり、今では生鮮食品にまでその取り扱いを拡げている。その品ぞろえは2億アイテム。リアル店舗でこの品ぞろえは不可能である。

 Eコマースの特徴は店舗が要らないことにある。小売業にとって店舗は不可欠の条件であった。店舗は販売拠点であるだけでなく、信用の象徴でもある。顧客は店を訪れることによってその企業をイメージし、商品を手に取って選別することで購入動機を高める。しかし、小売業のほとんどが成熟した現代では、顧客のほとんどが幾多の店舗を訪れたことによる経験値として商品や店舗特徴を熟知している。早い話がどこでどんな商品をどのくらいの価格で売っているか知っているということである。

 買い物がレジャーでもあった、過去のライフスタイルはもはや存在しない。今や買い物時間のほとんどは時間のロスだと考える消費者が、若者を中心に増え続けている。
高齢者はもはや十分にモノを持っている。当然、買い替え需要も消費量も若者に比べるとずっと少ない。いろいろな意味でその行動力も減少する。

ネットショッピングの伸長

 総務省の最新調査によると、2人以上の世帯でネットショッピングを利用しているのは約35%だという。その購入額もネットを利用していない全世帯平均で月額1万円を超えた。前年比20%増の数字である。ネット利用世帯だけに限ればこの額は3万1,000円余り。とくに利用の伸びが大きいのが旅行と食料品だという。おそらくこの傾向は今後ますます強くなるはずである。

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 上のグラフはアメリカ流通業のこの10年間の伸び率である。ほとんどの業態は伸びているが、書籍と百貨店の不振が目立つ。このなかで、書籍の不振が際立っている。我が国でも同じような傾向が顕著だが、とくに書籍店の状況は厳しい。その原因は2つある。1つは通販の影響である。アメリカ最大の書籍チェーンのバーンズ&ノーブル(B&N)はかつて品ぞろえと店舗数で存在は圧倒的な存在だったが、いまやかつての輝きをすっかり失い、その存在さえ危うい状況だ。逆に書籍通販でスタートしたアマゾンは書籍の世界で圧倒的なポジションを得ている。アマゾン設立当時、無店舗の書籍販売社がB&Nを駆逐するなど業界の人間は誰も考えなかった。当然、B&Nもオンライン書店や電子書籍に目を向けるという戦略をとることはなかった。その結果が現在の状況につながっている。

(つづく)

<プロフィール>
101104_kanbe神戸 彲(かんべ・みずち)
1947年生まれ、宮崎県出身。74年寿屋入社、えじまや社長、ハロー専務などを経て、2003年ハローデイに入社。取締役、常務を経て、09年に同社を退社。10年1月に(株)ハイマートの顧問に就任し、同5月に代表取締役社長に就任。流通コンサルタント業「スーパーマーケットプランニング未来」の代表を経て、現在は流通アナリスト。

 
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