「平壌五輪」化する「平昌五輪」南北統一チームにシラケる(後)
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平昌(ピョンチャン)冬季五輪が近づいてきた。前回、このコラムで予言した通り、北朝鮮は新年から「対話攻勢」に出てきた。またぞろ韓国を籠絡しつつある。韓国の文在寅政権は、本質的には北朝鮮との同調勢力だ。「我が民族同士」のかけ声に従北政権はご機嫌なようだが、周辺国はうんざりしている。今後一カ月間余り、我々は南北政権が連携した「人情悲喜劇」を見せられることになる。しかし松竹や吉本とは違い、舞台がはねた後に残るのは、北朝鮮による核脅迫という興ざめの現実である。平壌(ピョンヤン)主導の「祭り」の後に、大韓民国の死体が転がっていなければ幸いである。
年明けそうそうに、北側が「対話攻勢」に出るのは、日本や韓国の情報当局も予測していた。文在寅政権のスタッフは、盧武鉉政権時代に対北交渉をした経験者が少なくない。なかには学生時代に北の「主体思想」にかぶれた活動家出身者も少なくないのである。
そういう事情を知ってか知らずか、日本のメディアの中には、「安部首相は平昌五輪開会式に出席した方がいい」と言い出した新聞もある。1月12日付けの毎日新聞のあきれた社説だ。
「平和の祭典に政治的な(日韓)対立を持ち込むことには慎重であるべきだ」「首相が開会式に欠席すれば、日韓の冷え込みを内外に強く印象づけることになる」「日韓の離反が鮮明になれば、北朝鮮を利するだけだ」云々。この論調には、アンチ安倍の朝日新聞もついていけないのか、18日現在、同様な社説は出していない。当然であろう。
「2003年の大邱ユニバーシアード大会時、金正日総書記の肖像画が描かれたプラカードが雨にぬれているのを見て、泣き叫んでいた北朝鮮応援団に対し、韓国人はまるで女性アイドルグループであるかのような扱いをした」
このように指摘したのは、朝鮮日報のスポーツ部記者だ。日本の一部メディアでも同様な扱いをした。南北朝鮮が初めて国際大会に共同入場してから18年、応援団が初めて韓国に来てから16年が経つ。
その間に、北朝鮮は着々と核開発を進めた。今回は韓国での冬季五輪を口実に「対話攻勢」をかける。真っ当な政治家やメディアなら、北朝鮮の常套手段に気づいて、覚醒しなければならない。幕張の世界卓球選手権での出来事を思い出す。
大会開幕の前日、ひさしぶりに会ったコリア卓球選手団長は、はれぼったい顔をしていた。南北体育会談の北側首席代表だ。生気がない。「疲れていますね」と声を掛けると、「宿舎に還ってひと休みしたところだ」と応じた。コーチたちも「統一チームだから勝たねばという精神的負担感がある」と正直に話していた。
大会期間中、北朝鮮が突然、日本との国交交渉を提案してきた。いまになって考えれば、崔竜海訪日の背景には、この政治的決断が介在したと思われる。北側記者は僕に電話して来て「金丸(当時の自民党副総裁)って、どんな男だ」と聞いてきた。あのころは南北朝鮮も日本も、相手の出方が分からず混乱も多かった。
しかし、それから四半世紀以上も経過したのである。韓国人も日本メディアも、少しは賢くなったと思いたい。(了)
<プロフィール>
下川 正晴(しもかわ・まさはる)
1949年鹿児島県生まれ。毎日新聞ソウル、バンコク支局長、論説委員、韓国外国語大学客員教授、大分県立芸術文化短大教授(マスメディア、現代韓国論)を歴任。現在、著述業(コリア、台湾、近現代日本史、映画など)。最新作は「忘却の引揚げ史〜泉靖一と二日市保養所」(弦書房、2017)。関連記事
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