今、小売業に何が起きているのか チェーンストアの歴史と現在地(7)
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さまざまな生命が生まれては滅亡し、また多くの文明が誕生しては終焉を迎えた。長い間ほとんど変化とはほぼ無縁だった小売業に、人類登場よろしくスーパーマーケットなどのチェーンストアが誕生したのはつい100年ほど前である。それからというもの小売業界は極めて大きな変化を始めた。こうして起こった地殻変動は今も轟々と続き、かつて一世を風靡したスーパーマーケットすら新しい商流に押し流されようとしている。
インフレという見果てぬ夢 「実感なき好景気」の空回り
原材料や人件費の上昇、過当競争防止などの理由で最近、食品を中心に値上げの動きが広がっている。小売業者の思惑通り、順調に値上げが受け入れられるなら彼らにとっていうことはない。しかし、イオンや西友などの大手小売業はPBを中心に値下げを発表している。
その理由は競争力の強化だ。値上げの流れのなか、値下げを発表すればマスコミはそれを積極的に取り上げ、顧客の来店動機も大きくなる。まさに「make a difference」である。忘れてならないのは我が国の市場は縮小するという事実である。それだけではない。リユース市場の拡大も新規消費に大きな壁になる。書籍から衣料、雑貨のあらゆるものがリユース店に溢れている。近頃ではネットの個人営業も一般的だ。
アメリカでも日本でも若い世代のリアル店舗離れはとどまるところを知らない。それは店を訪れ、いろいろな品定めをすることがもはや楽しくない行為になってしまっているからに他ならない。この半世紀の間に、我が国にはモノがあふれ、あらゆる機会にその情報に触れる機会を経験してきた。あまつさえネットの普及でその情報収集は広範囲におよぶようになった。店を訪れるのは価格条件をたしかめるのが主で、たいていの場合は、店舗というコストを省いたネットストアで購入することになる。いわゆる「ショールーミング」といわれる現象だ。ショールーム化しつつあるリアル店舗がこの構図に対抗するには無店舗企業と同じこと、つまりネット事業に参入するしかない。しかし、リアル企業の場合の問題は、ネットで売れる分店舗の売上に影響が出ることだ。たとえばアメリカの大手百貨店のメイシーズだが、ネット事業は順調に伸ばしたものの、代わりに既存店舗の売上を減らし、多くの店舗を閉鎖しなければならないという結果を招いてしまっている。同じ状況はショッピングセンターにもみられる。我が国の商店街ほどではないがアメリカのショッピングセンターの空き店舗率はこのところ9~10%で推移している。それどころかショッピングセンター全体が閉鎖という事例も少なくない。
もちろん、「苛烈な競争」は今後も続くということである。激しい競争があるとモノの価格は上がりにくい。それでも、アメリカの場合は何とか物価上昇という成長を手にしてきた。しかし、直近では食料品を中心にその流れが止まろうとしている。
我が国は好景気といわれるが、物価も賃金も上昇しない「実感のない好景気」である。高度成長期の好景気は物価も上がったが、それ以上に賃金も上がり、それを実感できた。それと比較すると、今の好景気というのはその経験者にとっては、いかにも懐疑的ということである。
アメリカの不動産調査会社レイスによると、最近の大型ショッピングセンターの空き室率は8%を超している。近隣型は10%を超える。いずれもネット通販の影響が大きいのだろうが、更新投資をしないと必ず顧客から見放されるということに他ならない。そしてアメリカで起きることは必ず日本に伝播する。
(つづく)
<プロフィール>
神戸 彲(かんべ・みずち)
1947年生まれ、宮崎県出身。74年寿屋入社、えじまや社長、ハロー専務などを経て、2003年ハローデイに入社。取締役、常務を経て、09年に同社を退社。10年1月に(株)ハイマートの顧問に就任し、同5月に代表取締役社長に就任。流通コンサルタント業「スーパーマーケットプランニング未来」の代表を経て、現在は流通アナリスト。関連記事
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