2024年11月28日( 木 )

「社会主義現代化強国」を実現させる習近平(前)

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(株)アジア通信社 徐 静波 代表取締役社長

 中国共産党第19回全国代表大会(以下、第19回党大会)が、2017年11月18日‐24日に北京で開催された。習近平主席は同大会で、毛沢東と並ぶ、自らの名前を冠した「習近平による新時代の中国の特色ある社会主義思想」を党規約に盛り込むことに成功、理論面でも強い権威を得た。18年3月の「全国人民代表大会」(以下、全人代)を経て、習主席は新しい国家目標「社会主義現代化強国」の建設に向け第2期目を開始する。2018年の中国の政治・経済はどうなるのか。(株)アジア通信社 代表取締役社長兼『中国経済新聞』編集長の徐静波氏に聞いた。

2017年は中国にとって歴史に残る重要な年

 ――2017年の中国政治・経済を振り返っていただけますか。

 徐静波氏(以下、徐) 2017年は中国にとって歴史に残るとても重要な年になりました。
 それは第19回党大会において、党の憲法に相当する党規約に「習近平による新時代の中国の特色ある社会主義思想」が最終的に承認されたからです。1949年に共産党が政権を樹立して以来、今日に至るまで、中国で思想といえば、「毛沢東思想」と決まっていました。「改革・開放」を提唱し、中国経済を大きく引き上げた鄧小平主席でさえ、「鄧小平理論」はあっても「鄧小平思想」はありませんでした。

共産党・公務員の整理整頓

 ――習近平主席1期目の5年間ではどのような成果があったのでしょうか。

(株)アジア通信社 徐 静波 代表取締役社長

 徐 大きく分けて3つの成果がありました。1つは、中国の総合的な整理整頓が行われました。中国共産党の隊列と公務員体制を整頓し、役人の自己規制力を強化しました。とくに共産党の自己管理および自己浄化システムと制度を樹立し「法治国家」の土台を確立させたことは大きな実績です。

 鄧小平主席の提唱した「改革・開放」以来、中国経済は急速に発展して豊かになって行きました。それにともない、共産党員や公務員の権限も拡大、自分の署名1つで2億円、3億円のお金を自由に動かせるようになりました。そこに悪の連鎖も起こり、リベート、接待、お土産のやりとりなどが日常的に行われ、それを続けているうちに、麻痺し、勘違いし、悪いことをしていると思わなくなっていました。国民は共産党に不満をもち、共産党存亡の危機も叫ばれていました。習近平共産党総書記、国家主席が誕生した12年とはそのような年だったのです。

 習主席は早速、党中央規律検査委員会書記の王岐山の協力を得て抜本的な大手術にとりかかることになります。高官逮捕も容赦しない反腐敗運動「蠅は打つべし、虎も打つべし」を展開し、周永康、令計劃、徐才厚や薄熙来などの大物腐敗者、関係者が逮捕されます。並行して共産党員や公務員などが遵守すべき、贅沢禁止令ともいうべき「八項規定」も作成しました。

水平飛行モデル「新常態」

 徐 2つ目は、「投資型」の行き過ぎた高度成長にストップをかけ、速度を抑制した水平飛行モデル「新常態」(成長率が低下しても、質と効率の高い持続可能な発展を可能にする)に誘導しました。中国は8%以上の成長率を維持するために、中央政府も地方政府も各分野で無理やりに投資を繰り返し、経済を牽引してきました。その結果、とくに地方は借金だらけになって、大きな問題となっていたのです。この新常態への誘導により、中国の経済、社会発展、環境保護はバランスのとれた合理性のあるものになりつつあります。

 また、その過程において、生産過剰になっていたインフラ関連資材(鉄鋼、セメント、化学材料など)の抑制も行いました。つまり、「バブル崩壊」を避けるために、国と国民の皆でリスクを分担し、安全に着陸できる方法を手探りしながら、ここ5年は経済運営をしてきたわけです。今現在、経済において大きな効果は出ていません。しかし、5年前の墜落寸前だった状態は何とか脱し、再び機体を持ち直し、上昇気流に乗っていける準備は整いつつあります。

 中国において、8~10%の高い経済成長率が望まれるのは雇用との関係です。中国の大学卒業生は年間約850万人です。「1人っ子政策」でしたので、その彼らが就職できないと、家族全員が大変なことになります。そこで、従来は1%で約100万人の雇用が実現するという考えに立ち、8%以上を譲れないと考えてきました。

 しかし、ここ5年で政府はベンチャー企業の立ち上げなどを支援、そのための金融面、法律面のバックアップ体制を整備してきました。現在では、全体的な質も向上し、1%で約200万人の雇用が実現できるようになりました。その結果、大学卒業生850万人の雇用と高校卒業生約500万人の雇用を、6.5%以上の成長率があれば、確保できるようになりました。

(つづく)
【文・構成:金木 亮憲】

<プロフィール>
徐 静波(じょ・せいは)
政治・経済ジャーナリスト。(株)アジア通信社社長兼『中国経済新聞』編集長。中国浙江省生まれ。1992年に来日し、東海大学大学院に留学。2000年にアジア通信社を設立し、翌年『中国経済新聞』を創刊。09年に、中国ニュースサイト『日本新聞網』を創刊。著書に『株式会社中華人民共和国』(PHP)、『2023年の中国』など多数。訳書に『一勝九敗』(柳井正著、北京と台湾で出版)など多数。日本記者クラブ会員。経団連、日本商工会議所、日本新聞協会などで講演、早稲田大学特別非常勤講師も歴任。

 
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