トランプ現象を生んだ「アメリカ土着キリスト教」の真実(1)
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国際基督教大学 学務副学長・教授 森本あんり氏
アメリカの現状を読み解く上では、神学的な理解が不可欠である。それは、アメリカがピルグリム・ファーザーズ(巡礼父祖)に代表されるプロテスタントたちが立ち上げた宗教国家だからだ。しかも、アメリカという国を最深部で動かすキリスト教という原理は、「土着化」してヨーロッパのそれとは大きく異なる。本来、『聖書』における神と人間の関係は「片務」契約である。すなわち、神は人間の不服従にも拘わらず一方的に恵みを与えてくれる存在だ。アメリカではそれが「双務」になり、さらに主客が逆転している。
このことは何を意味するのか。話題の近刊『宗教国家アメリカのふしぎな論理』(NHK出版新書)の著者、森本あんり 国際基督教大学 学務副学長・教授に聞いた。読者が政治・経済・社会関連の本を読んでも「トランプ現象」や「ポピュリズム」について何となく残った頭の“霧”がこの本で一気に晴れる。「反知性主義」の行く手には何があるのか!
――大変な人気で版を重ねる前著『反知性主義』(新潮選書)に続いて、『宗教国家アメリカのふしぎな論理』(NHK出版新書)を著されました。その動機を教えて頂けますか。
森本あんり氏(以下、森本) 前著は2015年2月に出版されました。偶然ともいえますが、時を同じくして、日本を含めて世界中で「反知性主義」という言葉がブームとなり、多くのメディアで取り上げられるようになりました。おかげで、拙著も大変多くの皆さまに読んでいただくことができて感謝しております。
「反知性主義」とは、簡単に申し上げますと、現在の権力者やエスタブリッシュメントに対する反発を意味します。出版後、さまざまな機会で、反知性主義について話しておりますと、「それはわかりました」「では、その行く手には何があるのでしょうか」という問いを頂くことも多く、私自身もそのことを考えざるを得なくなりました。その答えを模索するうちに至ったのがこの本です。16年11月の「トランプ大統領の出現」や17年を通して吹き荒れた「ポピュリズムの蜂起」なども反知性主義の延長線上にあると考えられます。
「リベラルアーツ」の大切さを理解している
――本書の内容の一部は、次世代を担う財界人の研修会「不識塾」でお話されたものとお聞きしています。参加者の反応はいかがでしたか。最近の財界人は「新自由主義」浸透の影響かも知れませんが、一昔前の財界人とは考え方が変わったという印象を持っています。
森本 不識塾は大企業を中心とする次世代リーダー、40代、50代の部長、役員クラスが参加する研修会です。参加者は、約10カ月(5月中旬~翌2月下旬)の研修期間中は平日の激務のほか、土、日はほとんど徹夜で勉学に励んでいます。課題図書を読んで、ディスカッションをして、10人程度のグループに分かれて共同研究をします。各グループは異業種の次世代を担う財界人で構成されますので、参加者にとっては、研修後も大きなネットワーク財産になると考えられています。
私は不識塾で、宗教に関するリベラルアーツの講座を担当しました。国際基督教大学(ICU)では、創立以来今日まで約60年以上リベラルアーツを教えてきました。最初の50年間は正直言って、日本国内では「リベラルアーツって何?」という状態の連続でした。しかし、ここ10年くらいはまったく正反対の風が吹き始め、企業・団体などからは「大学ではリベラルアーツをしっかり教えて欲しい」という声が大きくなっています。これからの企業のリーダーにはそれぞれの専門的な知識や技能も重要ですが、それ以上はるかに、高度な人間力、倫理力、決断力、判断力をもった人材が渇望されているのです。
今リーダーの権威が相対的に低下しています
森本 私は講義の最後にはいつも「正統」にまつわる話をします。その時の研修生の反応は、とても前向きで、知的な理解だけでない心理的な納得感があることが伝わってきます。次世代リーダーの環境は、経済が右肩上がりであった時のリーダーとは大きく異なります。昔のリーダーには、ほとんど批判を許さない絶対的な権威がありました。民主主義の発達からすれば、そのこと自体は歓迎すべきでしょう。
しかし、今はリーダーであることの権威が相対的に低下しています。そこで、彼らは、自分がリーダーになった時、「腹の据えどころ」「踏ん張りどころ」をどこに置くべきかを模索しています。今の経営者には新しい波がどんどん押し寄せているし、上からはプレッシャーがかかり、下からは突き上げもあります。自分がこれから「どんなリーダーになるべきか」を手探りしている状態にあるのです。
(つづく)
【金木 亮憲】<不識塾について>
2010年設立、中谷 巌塾長
哲学、歴史、文化、宗教、倫理などリベラルアーツ教育を通じて、確固たる歴史観と大局観を養い、以って自身のアイデンティティを確立するとともに、日本の立ち位置を正しく世界に示し、グローバルな場において尊敬される真のグローバル経営者の育成を目指している。経営スキルを学ぶのではなく、リベラルアーツを通じて「物事の本質」を見極めるための研修を行う。<プロフィール>
森本あんり(もりもと・あんり)
1956年、神奈川県生まれ。国際基督教大学(ICU)学務副学長・教授(哲学・宗教学)。
79年国際基督教大学人文学科卒。91年プリンストン神学大学大学院博士課程修了(組織神学)。プリンストン神学大学客員教授、バークレー連合神学大学客員教授を経て、2012年より現職。著書に『アメリカ的理念の身体 寛容と良心・政教分離・信教の自由をめぐる歴史的実験の軌跡』(創文社)、『反知性主義 アメリカが生んだ「熱病」の正体』(新潮選書)、『宗教国家アメリカのふしぎな論理』(NHK出版新書)など多数。96年『ジョナサン・エドワーズ研究』でアメリカ学会清水博賞受賞。関連記事
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