迫りくる巨大地震・火山噴火「リング・オブ・ファイア」の脅威(後)
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国際政治経済学者 浜田 和幸 氏
このところ世界各地でマグニチュード7を超える巨大な地震が相次いで発生している。過去100年の世界における巨大な地震の発生頻度を調べてみると意外な事実が判明する。それは1900年から2000年まではマグニチュード6を超える地震の数は年間10件を超えることがほとんどなかった。ところが01年以降、今日に至るまで多い時には年間70件、平均すると30件以上もの巨大な地震が発生している。
巨大地震への備え
科学技術が進歩し、東京工業大学と京都大学では人工知能(AI)を駆使した火山噴火を予測する研究を進めているが、自然界の動きを正確に見極めるにはまだまだ時間がかかりそうだ。残念ながら、自然界の怒りのような地殻変動を沈静化させる手立ては人知では計り知ることのできないものかもしれない。とはいえ、歴史から学ばなければ未来はない。地震や火山の噴火は必ず繰り返し起きているわけで、その対策を怠るわけにはいかない。
その点、アメリカのコロラド大学とモンタナ大学の地震専門家チームは2017年の10月に衝撃的な研究報告を公表した。彼らは過去30年の世界の地震のデータを分析し、地震の発生と地球の自転との関連性を明らかにしたのである。それによれば、地球の自転速度が緩やかになると、赤道一帯での収縮が起き、その影響で地下のプレートが圧縮され、巨大な地震を誘発するとのこと。
この専門家チームはアメリカの政府機関である地質学調査局とも連携し、研究を進めている。彼らがまとめた報告書には「18年には17年と比較し、マグニチュード7.0以上の巨大地震が倍近く発生する」と明記されている。「その時期と場所を正確に告知することは気象予報と比べてはるかに難しく、不用意なパニックを起こすことは避けねばならない」とただし書きをしたうえで、「いつどこで地震が発生してもおかしくない状態にあること」を念頭に、避難訓練の実施と食糧や水の備蓄を薦めているのである。
アメリカ西海岸はまさに「リング・オブ・ファイア」のうえに乗っているため、常に地震とは切っても切れない環境にある。カリフォルニアではこれまでも大きな地震が数多く記録されている。2012年には「シェイクアラート」と呼ばれる地震警報システムも開発され、各地に設置が進んでいる。計画では1,675カ所に警報装置が稼働することになっているが、現時点では750カ所にとどまっているようだ。
もちろん、現在の警報システムでも高速鉄道は減速し、ガスのパイプラインは自動的に停止するとか、高層ビルのエレベーターも最寄りの階でドアが開くよう設定されている。また、病院では手術の中断が想定されている。ところが、トランプ政権になってから、こうした地震警戒システムの設置に関する予算が減額され、工事もストップさせられてしまった。地元の下院議員らが猛反発し、予算の削減は最小限に食い止められたようだが、史上最悪とまで言われたカリフォルニアの山火事への冷たい対応に加えて、自然災害への備えという分野でもトランプ大統領は物議を醸している。何か隠された意図があるのだろうか。自然界の力を引き出す
ところで、災害の頻発に悲観したり、アメリカの真意を忖度しているだけでは日本は生き残れない。今こそ日本らしいより創造的な取り組みを進める時である。たとえば、地震や火山の噴火は大きなリスクであるが、地熱発電という代替エネルギーの観点から見れば、火山のもつ可能性は大きく広がる。日本では温泉地周辺での地熱発電が徐々に拡大しつつあるが、電力が普及していないアフリカの途上国では火山の地熱を生かすことで経済を支える試みがスタートするようになってきた。
たとえば、エチオピアは火山や温泉が豊富な国であるが、国民の77%はいまだ電気の恩恵に浴していない。アフリカのなかでも最貧国の地位に甘んじている。しかし、世界でも最も活発な火山帯であるグレートリフトバレーのうえに位置するため、至るところにマグマが吹き上げる熱風や温水が溢れている。
これまで地元民たちは洗濯や入浴に使ってはいたが、発電に利用するという発想は皆無であった。とはいえ、地下に沸く源泉は400度近い高温であり、タービン発電機を回すには十分だ。太陽光発電や風力発電に勝るとも劣らない自然エネルギーの宝庫に違いない。そうした潜在的なエネルギー源に着目した国際的な共同プロジェクトは有望である。
同様の可能性はケニア、タンザニア、ウガンダといった同じ火山帯のうえに位置する国々にも提案できるだろう。幸い、航空写真を分析することで、地熱発電の可能性が高い場所が容易に特定できるようになった。日本もアフリカ諸国へのODAによる技術援助の中にそうした地熱発電分野での協力を検討すべきではなかろうか。アメリカは自然災害にかこつけた軍事戦略の中にビジネスチャンスを見出そうとしているわけだが、日本とすれば自然界の力を最大限有効に引き出す技術戦略で勝負すべきである。
(了)
<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選を果たした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。
今年7月にネット出版した原田翔太氏との共著『未来予見〜「未来が見える人」は何をやっているのか?21世紀版知的未来学入門~』(ユナイテッドリンクスジャパン)がアマゾンでベストセラーに。
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