2024年11月23日( 土 )

「ベストカスタマー」を中心に置く5理念で オークラのあるべき姿を追求する(後)

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(株)ホテルオークラ福岡 代表取締役社長 水嶋 修三 氏

 国内老舗ホテル御三家の一角を占める、ホテルオークラ。帝国ホテル創立者のD.N.A.を受け継ぎつつも同ホテルは、より迎賓館としての機能を発展させたという。西日本随一の繁華街・中洲の地を睥睨するように建つ威容はしかし、地域に溢れる文化の香りを色濃くまとう。

オークラ福岡のあるべき姿

 ――新年度について、そろそろ事業計画ができたころでは。

客室からは、都会的な福岡市の夜景を楽しむことができる

 水嶋 実は昨年、17年度が始まるときに9年間の中長期計画を作ったんです。25年度をゴールとするものです。そしてその計画を「ホテルオークラ福岡のあるべき姿」という言葉でまとめ、5つの項目をそれぞれ達成・到達目標として設けました。

 19年度が第一期中期計画3年目の最終年、今年は2年目になるので第一期の目標がどこまで達成できそうなのか、それをみんなが意識してほしいですね。5項目というのは、ベスト・カスタマー、ベスト・エンプロイー(雇用)、ベスト・フィナンシャルバランス、ベストACS(※) 、ベスト・コンプライアンスの5つです。

 このなかで、私はベスト・カスタマーが一番大事だと思っているんです。ではそのためになにをすべきか。いま、オークラニッコーホテルズでは「One Harmony」カードを作っていて、この会員をグループの力を結集して増やしていこうとしています。当ホテルは売上や利益ベースが順調に伸びているのに、残念ながらこの会員数だけが伸び悩んでいます。これに新年度は徹底して取り組もうと考えています。なおかつ、会員になっていただくだけではなくて、利用していただかねばなりません。全体の売上に占めるOne Harmony会員さまの目標シェアというのがあるんですが、それを19年の中期計画の最終年度は33%までもっていくことを決めています。そのためにも18年度は30%まではもっていきたい。そういった具体的な目標を掲げなければ、ただ会員になっていただくだけでは意味がありません。

福岡のホテルは供給過多?

 ――24時間常駐する職員が必要な業態ですね。政府が主導する「働き方改革」のようなものは難しいのでは。

 水嶋 ベスト・エンプロイーについては、宿泊業界は待遇が悪いので「ここまで待遇を改善する」ということを示す意味で、「賞与は~カ月分出す」といった具体的な数字まで含めて宣言しています。

 変えなければならないという使命感もありますね。国内の全産業のなかで最も給与水準が低いのが宿泊・飲食業界です。ホテルはまさにそのもので、アメリカであれば全産業でトップクラスとまではいえなくとも、日本のように突出して低くはない。サービスをすることに対する対価が少ないという文化もあるのでしょう。本当は宿泊料やレストランの単価を上げるべきなのでしょうが、そう簡単にもできないのが経営者の頭痛の種です。

 あとは、従業員の休暇や労働時間の管理の明確化です。数年前から有給休暇取得は当然だと口を酸っぱくして言っていますが、それでも実現は簡単ではない。大事なのは連続休暇なので、最低でも5連続休暇を「とらねばならない」としたんです。とりましょう、では誰もいうことを聞きませんから。これを始めて1年経ちましたが、まだとっていない部門があるんですね。これはいかんということで、翌年からはとらなかったら管理職の評価を落とすことにしたらさすがに取得率100%になりました。連続5日以上とっても何も言いません。休暇をとることでリフレッシュしますから心身ともに健康な社員でいてほしい。休みを最低でも5日とれということで、ジャズからとって「Take FIVE」と名付けました。

 ――完全に人の手を廃したロボットホテルや民泊など、簡素化したかたちの宿泊施設が増えています。歴史と伝統を代表する側としてどう思いますか。

 水嶋 そういった流れはしかたがありません。しかし、私たちはそういった潮流の対極にいます。人を省くことで上質なサービスはありえないし、しいていえば管理部門あたりならさまざまなAIを利用して業務を効率化することはできるでしょう。あるいは、予約システムについてはさまざまな過去のデータを大規模に学習させたAIのほうが効率よく、最適な予約受注までこなしてくれるでしょう。同時期に学会やコンサート、受験が重なる時期には助かります。

 よく他産業のいろいろな方や行政の方からいわれることがあるんです。「ホテル業界は良いですね。福岡はホテルが足りないですからね」と。その都度、いや、それは誤解なんですよと反論するんですが、そういった声はものすごく多いんですね。

 本当のことをいうと、たしかに2、3年前までは部屋をとれない事態がけっこうありました。さまざまなイベントが重なると極端に部屋を押さえづらくなりましたが、そのためにホテルがこの数年でどんどん建てられてきました。さらに20年までに、あと30のホテルが建つ予定だといいます。部屋数は現在2万5,000室くらいですが、あと5,000室も増える予定です。しかも、先ほどから指摘しているように民泊も増えますから、いったいどんな過剰な状態が生まれるのでしょうか。

 誤解を解かなければなりませんが、かつてはとりにくかったホテルの部屋も、いまはほとんど押さえることができます。ピーク時でも予約率が90%前後で落ち着くことがほとんどです。コンサートであれば、チケットを確保していないのに早めに部屋を押さえる人もいれば、旅行社が先行して仮予約することもあります。必ず供給過多になりますが、そうなったときにはサービス競争が起きるのは歓迎ですが、価格競争に走るのは業界にとっても良くない。国や県も部屋が足りないと思っている節がありますが、インバウンドもクルーズ船がほとんどですし、冷静に計画を立てるべきだと思います。

(了)

(※)ホテルオークラの企業理念は「Best ACS」(A:Accommodation、C:Cuisine、S:Service=最高の設備、最高の料理、最高のサービス)

<COMPANY INFORMATION>
代 表:水嶋 修三
所在地:福岡市博多区下川端町3-2
設 立:1996年2月
資本金:5億円
売上高:(17/3)62億5,000万円

<プロフィール>
水嶋 修三(みずしま・しゅうぞう)
1947年久留米市生まれ。70歳。北九州市立大学文学部卒業。2011年、(株)JTB九州社長から(株)ホテルオークラ福岡社長に就任。

 
(中)

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