アメリカが進める金正恩斬首作戦の中身(後)
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国際政治経済学者 浜田 和幸
それとは別に世界が注目したのは、アメリカのペンス副大統領の言動だろう。開会式に出席するため、アラスカ、東京経由で韓国入り。アラスカでは迎撃ミサイルシステムを視察し、日本滞在中は安倍総理との会談とは別に横田基地を訪問し、在韓米軍の家族を受け入れるために急いで建設された仮設住宅を確認。いずれも北朝鮮との軍事的衝突を念頭に置いたものに違いない。
冬季五輪の開会式では北朝鮮代表団の団長を務める金永南(キム・ヨンナム)最高人民会議常任委員長とのナンバー2同士の会談があるかどうかに関心が集まった。なぜなら国務省は「そのような会談は予定されていない」と否定していたが、ペンス副大統領もティラーソン国務長官も「どのような出会いがあるか行ってみないとわからない」と含みをもたせた発言に終始していたからだ。
ペンス副大統領は開会式に参列する際に、北朝鮮で収監され、帰国直後に死亡したオットー・ウォーンビア君の父親を同伴させた。その狙いは先の一般教書演説でトランプ大統領が行ったことと同じで、北朝鮮の非人道的な行為を世界にアピールすることであった。北朝鮮は猛反発したようだが、韓国側もアメリカの強い意向には同意せざるを得なかった。ペンス副大統領は、終始厳しい表情だった。
とはいえ、これも双方の駆け引きの表れに過ぎない。実は、直前まで北京を舞台にした米朝の水面下での話し合いが進行しており、平昌のオリンピック会場のどこかで米朝極秘会談が開かれた可能性もある。金永南委員長には金正恩委員長の妹を含む最側近と目される3名が同行していた。
彼らの表向きの言動をメディアは大忙しで追いかけていたが、同じ頃、ワシントンで開かれたティラーソン国務長官と中国の楊潔チ国務委員(元外務大臣)の会談から漏れ聞こえてくるのは北朝鮮政策のすり合わせであり、金正恩との接点の持ち方であった。実際、平昌オリンピックには北朝鮮から金正恩委員長の4歳年下の妹、金与正(キムヨジョン)が「ほほえみ外交」の主役として外交デビューをはたした。何しろ、彼女のあだ名は「北朝鮮のイバンカ」。トランプ大統領の特使として参加したペンス副大統領が北朝鮮代表団と握手もしないどころか、目も合わせなかったのと対照的に、彼女は笑顔を振りまいた。
韓国の文在寅大統領は大喜びで、3日間とも彼女に付き添った。金正恩委員長からの親書を持参したこともあり、妹とはいえ金王朝の直系というわけで、国賓並みの厚待遇であった。
面白くないのはペンス副大統領と安倍首相だろう。内外のメディアは「北朝鮮のイバンカ」に釘付け状態で、隅に追いやられた格好になったからだ。これではまるでオリンピックの主催者は「北朝鮮ではないか」と思えたほど。事前に金与正が訪韓するとの情報はアメリカも入手していたが、これほど人気を博するとは想定外だったに違いない。
兄の金正恩とともに幼い頃、スイスに留学し、その後も海外との接点の多い妹だ。父である故金正日総書記が「最も政治家に向いている」と断言したほど。乗馬が得意で、周りの男どもの操縦も手慣れたもの。北朝鮮代表団の団長で90歳の金永南氏も彼女には頭が上がらない様子が印象的であった。ところで、アイスホッケー女子の南北合同チームを応援していた北朝鮮の女性応援団200人が突然、金正恩の若い頃とおぼしきお面を被ってパフォーマンス。これにはビックリである。韓国の保守系国会議員らは「オリンピックの政治利用だ」と反発している。しかし、同じ会場に金正恩とトランプ大統領のそっくりさんが揃って登場したのは、さらなるビックリだった。
実は、開会式の折りにも、メディア席にそっくりさんの2人組が現れたので、周囲は騒然となった。まさか本物が来るわけはないが、余りにそっくりなので世界のメディア関係者は選手団の入場行進より、“金正恩委員長とトランプ大統領らしき”存在に気を取られることに。大慌てした警備関係者に連れ出されたが、ネット上では大騒ぎになったようだ。
金正恩のそっくりさんはハワードXという芸名で知られる香港系オーストラリア人。一方のトランプ大統領のそっくりさんはシカゴ出身でミュージシャンとして知られるデニス・アラン。これまでも2人揃って出演する企画はたびたびあったが、今回は仕事ではなく、「金正恩とトランプが仲良く語り合う場面を世界の人々に想像してもらいたかった。平和の祭典に花を添えるのが楽しみだった」と韓国訪問の趣旨をアピール。なかなか大した芸人魂の持主だといえるだろう。まだまだサプライズ満載の平昌オリンピックだ。メディアはこうした派手な演出や意外な展開に釘付けのようだが、人知れず米朝極秘会談が開かれたはずである。金与正は兄である金正恩の親書を文在寅大統領に持参したが、アメリカのペンス副大統領は、米軍がCIAと連携して準備を進めてきた斬首作戦「5015計画」の発動をちらつかせる恫喝外交を水面下で展開したようだ。開会式直前のレセプションや開会式の会場でペンス副大統領が見せた北朝鮮代表団への冷たい態度も、その一環であろう。
在韓米軍は全員、北朝鮮からの生物化学兵器による反撃を想定し、サリンや炭疽菌の予防接種を終えたという。平壌に大使館を維持し、北朝鮮の内部情報に詳しい英国外務省では、在韓英国人に対して密かに避難勧告を発動した模様である。平昌オリンピック・パラリンピックが閉幕した後、どのようなサプライズが起きるのか。浮かれてばかりはいられない。
(了)
<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選を果たした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。
今年7月にネット出版した原田翔太氏との共著『未来予見〜「未来が見える人」は何をやっているのか?21世紀版知的未来学入門~』(ユナイテッドリンクスジャパン)がアマゾンでベストセラーに。関連キーワード
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