2024年12月21日( 土 )

ネットに負けないリアルの逆襲~蔦屋書店から見る書店の未来(中)

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カルチュア・コンビニエンス・クラブ(株)

 今から30年前をピークにゆるやかな減少傾向をたどっている全国の書店。当時と比べれば約3分の1まで縮小しているのだが、その背景にはネット通販がある。近年、急成長を見せる国内のeコマース市場に対抗する手段としてリアル店舗の強化を行う企業がある。全国大手のカルチュア・コンビニエンス・クラブ(株)だ。

15年前に融合店舗を出店 ネットよりリアルにこだわる

 経済産業省によると、国内の書店数は1988年の2万8,216店をピークに右肩下がりの状況が続いている。2007年には約1万店減の1万7,363店となり、現在は1万2,526店まで減少している。その背景には、若者の活字離れを始め、少子高齢化、携帯電話やインターネットの普及などがある。また、書籍の予約販売を手がけるコンビニエンスストアの台頭もあり、時代の変化とともに書店は常に岐路に立たされてきた。

 そのようななか、日々新しい文化を注入してきたのが、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(株)だ。同社が展開する「TSUTAYA」や「蔦屋書店」は全国各地に店舗があり、国内で1,400店舗以上を出店する。同社傘下の(株)TSUTAYAは16年1月から12月までの書籍・雑誌販売額が1,308億円(全国812店舗)となり、年間販売総額が過去最高となったことを発表した。1994年より22年連続で過去最高額を突破したほか、書店チェーンの販売合計でも、業界トップの(株)紀伊國屋書店の売上高1,059億円(16年8月期)を抜き、日本一の売上高を誇る企業となった。

 今回六本松で開業した書店併設カフェは、03年にオープンした東京・六本木の「TSUTAYA TOKYO ROPPONGI」が始まりだ。書店とカフェを融合させ、カフェで本を読みながらくつろぐスタイルを15年前から提案していたことになる。

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 経産省が17年4月に発表した「電子商取引に関する市場調査」によると、16年に国内のBtoCのEC(消費者向け電子商取引)市場規模は15兆1,358億円となり、前年比9.9%となった。10年が7,788億円だったことを考えると、6年間で市場規模はほぼ20倍となっている。国内EC流通総額で3兆95億円(2016年1月~12月)の楽天市場(旅行、チケット販売などを含む)をトップに「ヤフオク」と「Yahoo!ショッピング」を運営するYahoo!JAPANが1兆8,528億円(2016年4月~2017年3月)で続く。アパレル通販の「ZOZOTOWN」(ゾゾタウン)といった企業も業績を伸ばすなか、急成長を遂げたのがAmazonだ。Amazonの2016年の国内売上高は1兆1,000億円。アメリカの15兆円にはおよばないものの、世界的にみても急成長している市場といえる。

 楽天、Yahoo!JAPAN、Amazonの3社合計で6兆円を超え、国内市場全体の40%以上を占める。これは16年の百貨店の商業販売額6兆5,976億円(前年比▲3.3%減)に肉薄し、家電大型専門店の4兆1,830億円(同▲1.5%)を超えることを考えれば、ネット通販が小売業の脅威となっていることがわかる。

書店を次々と買収 出版のSPA企業目指す

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 カルチュア・コンビニエンス・クラブの連結売上高は2,551億4,700万円(17年3月期)。(株)TSUTAYAを旗艦企業として、(株)Tカードなどの複数の事業会社が名を連ねる。75の連結子会社と40の持ち分適用会社を傘下に収め、ほか社の追随を許さない企業に成長している。

 決算データは11年7月の株式上場廃止後は非公開となっているが、上場廃止後も出店の手綱を緩めることはない。むしろ上場廃止後からM&Aを本格化させたこともあり、スピード感を増したという見方もある。15年8月に民事再生法を申請して経営再建中だった(株)美術出版社を傘下に収め、17年3月には中堅出版社の(株)徳間書店を買収するなど、出版社を傘下に収める動きが顕著となった。この背景には、同社の増田宗昭代表が「SPA企業」を目指していることがある。

 SPAとは、Specialty store retailer of Private label Apparelの略。本来はアパレル業界の用語で、商品企画から製造、小売までを一社で手がける企業のこと。出版業界でいえば、書籍や雑誌の企画や編集など出版社がはたしていた業務から、書店が担っていた販売までを1社で行うことといえるだろうか。
子会社化の前に、同社は徳間書店との間で13年に子会社を通じて議決権の約15%の株式を保有する業務資本提携を結んでいた。今回の買収では株式の比率を97%にまで拡大。ネット通販が市場を席巻するなかで、ネット通販にはできないこと、あくまでもリアル店舗でしかできないことを常に模索していることがうかがえる。その結果が出版社の買収につながっているといえる。

(つづく)
【矢野 寛之】

<COMPANY INFORMATION>
代 表:増田 宗昭
所在地:東京都渋谷区南平台町16-17
設 立:1983年3月
資本金:1億円
売上高:(17/3)2,551億4,700万円

 

 

 
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