2024年11月17日( 日 )

地方スーパーの生き残り策(4)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

選択と集中

 不振の日本型大型店とは対照的に、90年代以降はGMSの売り場を切り取って専門性と利便性を高めた業態が好調だ。コスモスやモリなどのドラッグストアである。さらに衣料品のしまむら、ホームセンターや家電専門店もこの部類に入る。
 彼らの特徴は低い経費での運営である。彼らはローコストゆえに低い値入(安い売価)で商品提供ができる。安く売れば販売エリア(商圏)は広くなるし、購入頻度も高くなる。

 では、なぜローコストが実現できるのかということである。その理由を一言でいうとまず、「生鮮を持たない」からである。生鮮のデメリットはまず、商品のロスが大きいことである。魚や肉、総菜、野菜は普通の食品に比べて極端に販売期間が短い。おまけに売り場や作業場も大きなコストをともなう。さらに加工人員のコストも小さくない。たとえば今、14~15%の経費率であるコスモスのようなドラッグ店舗に通常のスーパーの生鮮を付加すれば、その経費率は軽く5~6%上昇する。これは普通のスーパーの経費率と変わらないレベルである。しかも、それは生鮮を付加した分、順調に売上が伸びてのことである。
 加えて生鮮食品には、それなりの加工技術が要求される。そして、その人材の育成は容易ではない。
ドラッグストアの場合は必要店舗面積、店舗運営技術、建設投資額のいずれを見ても多店舗化が容易である。しかし、生鮮の売り上げ構成が40%を超えるスーパーマーケットの多出店はそうはいかない。運営のなかで最も大きな経費である人件費も同じである。ドラッグストアは若い企業であり1人あたり人件費額が低く、ホームセンターは従業員の受け持ち面積が大きく、人的効率が高い。

出店余地がない

 今、全国的に大型店舗の出店余地がなくなってきている。大型商業施設だけではなく、中規模タイプのスーパーでも同じである。加えて、コンビニやドラッグという部分競合の店舗はますます増え続ける。人口が増えない限り、店の増加は売上の低下につながる。このことに関しては、ほかの業態も同じである。ドラッグストアが加工食品だけでなくペリシャブルフーズ(乳製品や日配品、生鮮などのライフサイクル短い食品)を加え、コンビニが物販以外のいろいろなサービスを取り込むのもオーバーストア競争を乗り切るための相手業態への侵略ということにほかならない。
 かつてはスーパーマーケットとコンビニは競合しないというのが一般論だった。ドラッグストアも同じである。しかし、店が隣接し、取扱商品の部門が重なると、お互いの業態の壁はなくなるのである。

 つい最近、アメリカの高質店ホールフーズをアマゾンが1.5兆円で買収した。ホールフーズは、その質の高さと店内のプロモーションで顧客だけでなく、日本からの見学者にも感動を与えるすばらしいスーパーである。
 しかしこの数年、その業績に停滞感が出始めた。かのリーマン・ショックでさえ軽々と乗り越えたこの企業にいったい何が起こったのだろう?

 もちろん、ホールフーズは現在も優良企業には違いない。しかし、ここにきての彼らの経営が少しぶれ始めている。
 その端的な例が極めて特異な出店だ。ホールフーズには「ホールペイチェック」という別名がある。財布丸ごと持っていかれる……。つまり高いという表現である。マスコミによる表現だが、たしかに安くはない。いや、どう考えてもやっぱり高い。高額所得者や観光客は別にして、普通のお客は、その日常の食のすべてをホールフーズで調達するのは容易ではない。

 そんなホールフーズだが、なぜか昨年9月末にフードデザートといわれるシカゴのイングルウッド地区に出店した。貧困率50%といわれ、犯罪多発地区のこの街からは、すでにほとんどのスーパーが撤退している。だから食の砂漠地域になっているのだ。しかし、いくら店がないといっても年収平均が1.1万ドル余りのいわゆるラストベルトの地区の住人が一個1,000円近いハンバーグや100gで500円の肉を喜んで買いに来るはずがない。

(つづく)

<プロフィール>
101104_kanbe神戸 彲(かんべ・みずち)
1947年生まれ、宮崎県出身。74年寿屋入社、えじまや社長、ハロー専務などを経て、2003年ハローデイに入社。取締役、常務を経て、09年に同社を退社。10年1月に(株)ハイマートの顧問に就任し、同5月に代表取締役社長に就任。流通コンサルタント業「スーパーマーケットプランニング未来」の代表を経て、現在は流通アナリスト。

 
(3)
(5)

関連記事