2024年11月24日( 日 )

加速する地球温暖化で危機に瀕する「現代版ノアの箱舟」(1)

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国際政治経済学者 浜田 和幸

 今年は3月2日が中華圏での「バレンタインデー」であった。もともと、日本の小正月にあたる「元宵節」で、提灯を飾り新たな年の到来を祝うのが伝統で、賑やかな提灯の下で未婚の男女が出会う「お見合い」の意味も込められている。中国やアジアではチョコではなく、甘いお団子を食べるのが習わしのようだ。

 さて、バレンタインデーといえば、日本では「チョコレート」一色となる。チョコレートメーカーにとっては最大の稼ぎ時である。しかし、2018年明け早々、チョコレートファンにとっては聞き捨てならないニュースが飛び込んできた。何と、アメリカの海洋大気協会(NCAA)の調査報告書によれば、「チョコレートの原材料であるカカオが絶滅の危機に瀕している。このままでは30年以内にカカオは地上から消滅する」とのこと。

 要は、2050年までにチョコレートが食べられなくなるかもしれないというわけだ。なぜだろうか。実は、カカオは中米の旧インカ帝国が原産地であり、医療や延命効果もある「神々の食べ物」と称され、2000年もの歴史を持っている。ブラジルやペルーでも収穫されるが、現在、世界のカカオの半分以上がアフリカのコートジボワールとガーナの2カ国で生産されている。

 ところが、近年の地球温暖化の影響で、赤道付近では雨量の減少が著しく、カカオの育成に異常が見られるようになった。加えて、新たな害虫や病原菌が次々と発生しており、チョコレートの原料が安定的に供給され難くなってきたというのである。コスタリカではカカオの輸出量が96%も低下してしまった。

 チョコレートメーカーにとっては由々しき事態といえよう。何しろ、欧米はもちろん最近では中国を筆頭に、インド、インドネシア、ブラジル、ロシアなど巨大な消費地においてチョコレートの需要はうなぎ登り。従来の農法では需要に追い付かず、今後は年間10万トンのチョコレートが不足するとの予測も出ていたからだ。

 とくに日本では年々10%近い勢いでチョコレートの売上が伸びている。しかも、「義理チョコ」や「本命チョコ」ではなく、自分用に高価なチョコを買うのが最近の傾向である。松屋銀座店での調査によれば、自分用の「ご褒美チョコ」の予算は前年比14%増の4,000円で、本命チョコ用の3,400円を上回ったという。平均すると、バレンタインデー用に1万円程度のチョコを買う女性が圧倒的らしい。

 その背景には「チョコレートが美容と健康、そして記憶力の向上や長寿に効果がある」との見方が広まったことがある。いずれにしても、原材料のカカオが消滅してはお手上げだ。そこで、世界最大のチョコレートメーカーのマーズはカリフォルニア州立大学に10億ドルの資金提供を行い、水不足や害虫に強い遺伝子組み換えカカオの研究開発を依頼。はたして、最新のDNA操作技術によって、間近に迫った「チョコレート危機」を救えるのだろうか。そうした動きをとらえて、これまでカカオの生産には余り熱心に取り組んでこなかったベトナムでは、このところ急速に増産体制を組み始めた。

(つづく)

<プロフィール>
hamada_prf浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選を果たした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。
今年7月にネット出版した原田翔太氏との共著『未来予見〜「未来が見える人」は何をやっているのか?21世紀版知的未来学入門~』(ユナイテッドリンクスジャパン)がアマゾンでベストセラーに。

 
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