2024年12月26日( 木 )

【就活戦線2018】「裁量労働制」を知らない若者たち

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 「知らない」「わかりません」「……なんですか?」
 国会が紛糾し、厚労省のお役人が資料捏造の疑いをかけられ、ついには安倍政権の金看板の1つ「働き方改革」に大きな傷をつけた「裁量労働制」についての、就活生の認識はおしなべて低い。3月1日、2日の両日、福岡ヤフオク!ドームで開催された合同企業説明会「就活開幕☆LIVE」で、学生たちの話を聞いた。

 しかたなく説明したうえで、「裁量労働制と、一般労働制。あなたは働くとき、どちらがいいですか?」と聞いてみる。こちらの答えは、十中八九が「一般労働制がいいです」だ。理由を聞くと、ほとんどが「残業代が出るから」。これはこれで、納得できる返事ではある。「でも、残業代だって全額出るとは限らないよ。裁量労働制のほうが、基本給としては高くなるんだけど……」と水を向けても、答えは変わらない。アルバイト経験のある学生も多く、ブラック企業めいた誘惑にはおいそれとは引っかからないようだ。

 学生たちの興味深い声を、いくつか拾ってみよう。

 「どちらかといえば、一般労働制がいいです。決められた時間帯で働く方がよくないですか?(志望する業界は、場合によっては24時間いつでも仕事でしょう。裁量で、って言われたら?)それは……やるしかないですね」(近畿大学・産業理工学部・男子学生。通信業界志望)
 「一般ですね。自分の時間を持てて、成長できるイメージがあります。(裁量と指示されたら?)就職したら、それは就職先に合わせます」(近畿大学・産業理工学部・男子学生。旅行・ブライダル業界志望)

 「残業代が出るから一般労働制がいい。でも、職務命令なら裁量労働制でもいい」。「知らない」と答えたこともあってか、なかなかイメージが固まっていない学生が多いようだ。

 そのなかで、ある女子学生2人組の返事は異色だった。
 「裁量労働制のことは、知っています。私としては、どちらでもいいですね。それこそ、自分で裁量して働くことができるわけですから、裁量労働制のほうが働きやすいこともあると思います」(札幌大学・地域創生専攻。広告・出版・建築業界志望)。
 「残業が苦だとは思いませんし、勤務時間を超えて働く必要がある場合もあると思います。選べるなら、裁量労働制を選びます」(福岡女学院大・人文。デパート販売・ブライダル業界志望)

 この2人がほかの学生と違っていたのは裁量労働制への認識だけではない。「あなたの夢はなんですか」というあいまいな投げかけに対しても、「本をつくることで、人の生活に関わりたい。自分たちより上の世代に働きかけたい」(札幌大学)「人と関わる仕事をやっていきたい。入社した会社には、なるべく長く勤めたい」(福岡女学院大学)と、しっかりした答えが返ってきた。「なんとなく」「イメージで」ではなく、「自分たちがやりたい仕事なら、当然こういう働き方が求められるはず」という思考の先にある答えだと感じられた。

 これまで「学び」「育ち」など、自分の価値を高める行動ばかりを求められてきた学生たちは、就職活動の時期に突然「働く」ということに向き合わざるを得なくなる。就職活動とは「自分をいかに高く売り込むか」という営業活動。これまでの「学び」と「育ち」が、どれだけ自分に付加価値をつけてくれたかを知る機会でもある。

 「働き方改革」は、単に労働時間をどうするかという話ではない。政府は「就業機会の拡大や意欲・能力を存分に発揮できる環境をつくる」と謳っているが、これから加速する少子化の時代において、少なくなっていく働き手が十全にその実力を発揮できるようにすることが、本来の求められる「働き方改革」だろう。

 自分が働く、と考えたときに、働くことを通じて何をしたいのか。何を得たいのか。それを突き詰めて考えれば、自分の「働き方」が見えてくる。給料のために働く、余暇のために働く、自己実現のために働く。さまざまな働き方があるだろう。今、就職活動に追われている若者たちが、自分なりの働き方のビジョンをつかんで、来年春の新入社シーズンを迎えられることを祈るばかりである。

【深水 央】

 
 

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