小売業―かつてない激変期(5)~変わる価値観、小さな食ライフスタイルの変化が
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生鮮食品に対する嗜好性の変化は今後のスーパーマーケットの経営に大きな影響をおよぼす。グラフ2を見てほしい。水産物の1人あたりの消費は15年前から30%以上減少している。それにともない、スーパーマーケットの水産売り場に異変が起きている。
ひと昔前までは主婦のほとんどは魚の処理ができた。しかし、その親から調理技術を受け継ぎ損ねたミレニアル世代はそうではない。鮮魚の加工、処理作業は思いのほか手間がかかる。四半世紀前まではこの手間は家庭が担っていた。しかし、現在ではそれがすべて店舗にゆだねられる。店舗にとっては想像以上のコスト負担である。これは水産部門で利益を手にするのは容易でないということにつながる。
さらにマンションなどの集合住宅での水産物の調理は臭いや後始末の問題も発生する。下処理がほとんどいらない肉類に比べて、鮮魚などの水産物はその調理だけでなく鮮度保持が難しいのも、需要減にさらに拍車をかける。高度成長とともに、海外からの輸入や家庭内調理を主婦に代って引き受けたスーパーマーケットによる簡便性の提供で消費が伸び続けた水産物だったが、上記理由などでバブル崩壊の景気低迷と軌を一にするようにその消費は低迷を始めた。さらに世界的な鮮魚需要の伸びと気象条件変化による漁獲量の減少が魚価の上昇を招き、消費の抑制はさらに進行する。
1つの部門の転換が全体にも大きく影響する
水産部門のもう1つの問題は人手不足だ。水産部門はその仕事の特性から募集をかけても人が集まらない。とくに水産物が食卓に上る機会が少なくなった世代は、水産物への馴染みの薄さも手伝って仕事としての水産物部門を敬遠する。いまやスーパーマーケット業界団体の調査では70%以上の企業が水産部門の人手不足に直面しているという。
人手が掛けられないということは付加価値の高い商品づくりができないということである。店舗での価値付加ができなければ残されるのは効率化だ。そのためにはセンター製造や外部委託製造が避けて通れない。水産物の加工食品化が進行し、売り場が均質化する。近い、安い、手間なしというニーズが生鮮食品の分野にも必須条件として定着するのだ。店や店舗ごとの差がなくなればわざわざ店に足を運ぶ必要は薄くなる。
(つづく)
<プロフィール>
神戸 彲(かんべ・みずち)
1947年生まれ、宮崎県出身。74年寿屋入社、えじまや社長、ハロー専務などを経て、2003年ハローデイに入社。取締役、常務を経て、09年に同社を退社。10年1月に(株)ハイマートの顧問に就任し、同5月に代表取締役社長に就任。流通コンサルタント業「スーパーマーケットプランニング未来」の代表を経て、現在は流通アナリスト。関連記事
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