2024年12月23日( 月 )

小売業―かつてない激変期(6)~簡便性かこだわりか?業態枠も消える

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 調理時間と技術的な問題で進むのがキット宅配だ。手ごろな価格での食材セットの宅配は調理時間の問題だけでなく、それにともなうごみ、無駄の発生を抑制するだけでなく、高級レストラン並みのレシピ付きということで今後、大きく伸びる可能性がある。そして、この分野はスーパーマーケットでなくても参入壁は高くない。 こんな消費スタイルの変化が招くのが、スーパーマーケットの位置づけの変化だ。

 以前はスーパーマーケットとドラッグストア、コンビニなどの業態の違う店は競合しないというのが普通の見方だった。それは食卓のメインである生鮮食品がそろわないことで食のワンストップショップができないというのが大きな理由だ。しかし、今やそれは過去の話になりつつある。ドラッグストアは従来の医薬品、雑貨に加えて、加工食品、日配品を取り入れ、最近では生鮮食品にまで取り扱い品目を広げて限りなくスーパーマーケットに近づく。中にはコスモス薬品のように売上の半分以上が食品というドラッグストアもある。

 若い消費者はドラッグストアで生鮮を買うことにかつての主婦のような抵抗感はない。さらに、ホームセンターもスーパーマーケットとのコラボレーションや自らも食品を品ぞろえすることで顧客の利便性を図る。どう見ても厳しいスーパーマーケット包囲網である。

 生鮮という高コスト部門を抱えるスーパーマーケットは、15%以下での粗利では運営できない。とくにお客から見て価格比較が容易な加工食品や日配品での価格競争は不利になる。

新たな難敵

 インターネット通販企業の新たな試みも次々にその姿を現す。アマゾンはダークストアと呼ばれる300坪程度の施設を利用したアマゾンフレッシュ ピックアップというドライブスルー専用の施設を実験オープンした。

 ネットで注文した生鮮品を専用駐車場で受け取ることができるサービスだ。最短15分で注文品を受け取ることができる。注文品はスタッフが車まで運んでくれるので車から降りる必要はない。

 そのアマゾンだが、ネットという無店舗で成長してきたにもかかわらず、昨年高質スーパーマーケットのホールフーズを買収した。その結果、思いがけない反応を示したのが既存のスーパーマーケットだ。
 アメリカで食品宅配といえばオンデマンド買い物代行のインスタカートだ。インスタカートは地域ごとにスーパーマーケットと提携していて、会員登録するとパーソナルショッパーと呼ばれる代行者が買い物を代行してくれる。ホールフーズも同社と契約しており、アマゾン買収後の結果がどうなるかと注目されたのだが、競合スーパーはアマゾンとインスタカートの組み合わせに予想以上の反応を見せた。全米のスーパーマーケットがインスタカートにアプローチを始めたのだ。日本でもおなじみのアルバートソンズや一部のクローガー店舗、パブリクスやHEBに加えてコストコやディスカウントのアルディーまでもが具体的な取り組みに舵を切った。まさに半狂乱的反応である。

 しかし、それでも新興企業の優位性は揺るがない。その利点は既存の設備を持たないことだ。既存の設備は改善するにも維持するにも廃止するにも大きなコストをともなう。
 たとえ思い切って既存店舗に投資しても、新たな店が生む売上には遠く及ばない。いわゆる投資効果が薄いのだ。店舗の陳腐化に対して、普通の企業が取るのが経費節減策だ。陳腐化した設備や店舗内装をそのままにして販売管理費だけを必要以上に削ろうとする。

 小売業の場合、大方の経費は固定費だ。それは人件費も同じで、経営者は一番わかりやすい人件費を削るのが一般的だ。しかし、スーパーマーケットの人件費は生産材料でもある。材料を削れば当然、生産物に影響が出る。その陳腐化で今滅びつつあるのが、かつてアメリカ小売業界の王者だったシアーズだ。同じ位置づけだったKマートと合併して再起を図ったが、旧タイプの店を改善できなくてただただ閉鎖を繰り返している。当然、その先行きは暗い。

 同じような現象は我が国の大手小売業も経験した。その典型がダイエーだったが、九州でも壽屋やユニードが同じ状況で姿を消している。
 その点、新たに事業を起こそうとする場合、そのようなコストは不要だ。もちろん、新たな試みが必ず成功する保証はない。しかし、新興企業の試みは少なからず既存企業に影響する。たとえば、前出のダークストアだ。普通のスーパーのように売り場はあるが、一般客が入店することはできない。そこには窓も顧客サービス用の設備もない。施設としては極めてローコストである。
 お客からの注文品がスタッフによりピックアップされ、袋詰めされる。もちろん、このやり方がうまくいくかどうかはある期間を経なければわからない。しかし、先行きが分からないからといって、何もしないではすまないのが既存企業の悩ましいところだ。先行者と同じようにコストと危険をともなう新たな試みを実行しなくてはならない。たとえば、HEBやウォルマートなどの米小売業はカーブサイドピックアップと呼ばれるドライブスルー型の施設を設ける実験を始めている。しかし、これらの実験は効率化と逆行する。

 生鮮宅配も同じである。しかし、これは対岸の火事ではない。アメリカで起こっていることは必ず時を置かずして我が国の業界にも飛び火するからだ。これらのことを考えると新たな試みに否応なく対応を強いられる既存のスーパーマーケットの旗色はどう見てもよくない。

(つづく)

<プロフィール>
101104_kanbe神戸 彲(かんべ・みずち)
1947年生まれ、宮崎県出身。74年寿屋入社、えじまや社長、ハロー専務などを経て、2003年ハローデイに入社。取締役、常務を経て、09年に同社を退社。10年1月に(株)ハイマートの顧問に就任し、同5月に代表取締役社長に就任。流通コンサルタント業「スーパーマーケットプランニング未来」の代表を経て、現在は流通アナリスト。

 
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