義援金200億円に見る、日本と台湾の距離!(1)
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台湾在住の作家・木下 諄一 氏
日本中を震撼させた「東日本大震災(通称3.11)」からちょうど7年が経った3月11日に「アリガト 謝謝‐200億円の義援金を贈った台湾」と題する講演会(主催:台湾文化補習班)が東京・文京区民センターで開催された。当日の講師で台湾から来日中の木下諄一氏。2011年に外国人として初めて第11回台北文学賞に輝き、昨年出版の『アリガト 謝謝』(講談社)が版を重ね、日台で今注目される作家である。
日本は3.11で世界各国から多くの義援金を受けた。外務省によると、米国から約90億円、中国から約3億4千万円、そして台湾から約200億円である。これは義援金の大きさを競う話でも、政治にまつわる話でもまったくない。それにしても、台湾の領土(九州と同程度)、人口(約2,300万人)を考えると、この金額はあまりにも大きい。木下氏はこの謎を解くために数年にわたって現地調査を行った。そこに何が見えたのか、話を聞いた。被災地の人たちが台湾のことを知りたがっている
――お忙しい中、お時間を賜り感謝申し上げます。本日は台湾について、色々と教えていただきたいと思います。まずは、今話題の『アリガト 謝謝』(講談社)の執筆動機からお聞きかせください。
木下諄一氏(以下、木下) この本を書こうと思ったのは2013年の秋ごろのことです。きっかけは、日本の友人から「東北の被災地の人たちが台湾のことを知りたがっている」という連絡を受けたことによります。「東日本大震災(通称3.11)」が起きた2011年からすでに2年以上を経過していました。そのため、被災地の人々は台湾が多額の義援金を送ってくれたことは皆知っていました。同時に、被災地では、その感謝の意味も込めて「自分で台湾に行き、どんなところか見てきたい」人が増えていること、自分の子どもを修学旅行などで送り出し「台湾というところをよく見てきなさい」という両親が増えているという話なども伝わってきました。台湾に住んでいる日本人に共通しているのですが、日本で「台湾」という文言が出るとすぐ敏感に反応してしまうのです。
その時は「被災地と台湾を舞台にした物語を書き、日本で出版、被災地ほか全国の方に読んでもらえれば、台湾の紹介にもなり、日台友好につながるのではないか」と考えました。しかし、少し冷静になって考えて見ると、このことはかなり難しいことに気づきます。それは、被災地という題材は、実際に被災し、心の傷を負った人たちが取材対象になるので、かなり慎重さが要求され、とても書きづらいものだからです。また、私は被災地の東北とは縁もゆかりもありません。「そんな私が被災地という話題を取りあげていいのだろうか」と思うようになり、その気持ちは潮が引くように冷めていきました。
しかし、その後も友人からの「東北の被災地の人たちが台湾のことを知りたがっている」
という声は私の潜在意識から消えませんでした。それからしばらくして朝、目が覚めた時にはっと新しい閃きがありました。それは、「義援金が集まっていく過程を現地視点で描くのはどうだろうか」「これなら、被災地の人はもちろん。日本国民の多くが知りたいのではないだろうか」というものでした。そう思った瞬間から、もう迷いはなくなりました。これが『アリガト 謝謝』構想スタートの瞬間です。30年以上お世話になった台湾への恩返しと考えた
――先生は本書の執筆を「私に与えられた使命」と言われております。それはどのような意味なのでしょうか。
木下 まず私は物書きです。そして台湾に戒厳令下(1980年代)を含めて30年以上住んでいます。この仕事は結果的に台湾に「感謝」することになります。台湾の作家では自我自賛になり、相応しくありません。だからと言って、日本から作家の先生が来て取材することはとても難しいでしょう。本当に台湾人の気持ちを知るためには、少なくとも10年、20年は現地で生活する必要があるからです。限られた時間で聞いたこと、理解したことだけでは、どうしても浅いものになってしまいます。今回の私の本の特徴は、私が台湾について知っているすべてのことから、このテーマに相応しいものを厳選、さらに濃縮して書いている点にあります。
取材していく過程で、口にこそ出して言いませんでしたが、彼・彼女らの「義援金のことを日本に伝えて欲しい」という気持ちは明確に感じとることができました。そこで、使命というか、30年以上お世話になった台湾への私の恩返しの機会だと考えました。また、半分忘れかけているものを、思い出しながら丁寧に語ってくれる様子を見て、この話を聞けるのは今が最後かもしれないとも思いました。
(つづく)
【金木 亮憲】<プロフィール>
木下 諄一(きのした・じゅんいち)
1961年愛知県生まれ。東京経済大学卒業。商社勤務、会社経営を経て台湾に渡り、台湾観光協会発行の『台湾観光月刊』編集長を8年つとめる。2011年、中国語で執筆した小説『蒲公英之絮』(印刻文学出版社)で、外国人として初めて、第11回台北文学賞を受賞。
著書にエッセイ『随筆台湾日子』(木馬文化出版社)、『アリガト 謝謝』(講談社)など。関連記事
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