2024年12月23日( 月 )

小売業―かつてない激変期(13)

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 スーパーマーケットの経営に限ったことではないが、経営の根幹はいかに損益分岐点を上回る売上を上げるかにある。前にも述べたが、スーパーマーケットの経費はそのほとんどが固定費である。売上が上がるほどにメリットは大きくなる。
 表6の店舗をもし、そのままの形態で運営していたとしたらどうだろう。おそらく、その売り上げは限りなく年商10億に近づいたはずだ。損益分岐が年商13億の同店にとっては手の打ちようがない数値である。
 店舗面積の問題にはもう1つの特徴がある。売り場にはわかりやすさというテーマがある。どこに何があるか一目でわかる。たいての店はそれに沿った売り場づくりを志向する。しかし、もう1つ忘れてならないのは「圧縮付加」である。狭い売り場に限りなく商品を詰め込む。これはお客をトレジャーハンターにしてしまうやり方で草創期の日本型大型店でよくみられた。現代ではドンキホーテなどがその手法を用いている。狭い売り場に色々あればお客は品ぞろえがいいと感じるものである。いくらアイテム数を増やしてもお客に取ってほしいものがなければそれは品ぞろえがいいということにはならない。
 楽しくなる、買いたくなる。買い物の基本は衝動買いということを考えると、売り場面積ではなく、売り場づくりこそ肝要ということになる。それが圧縮付加である。300坪程度の売り場面積でも年商25億を超える店とはお客から見て楽しく、いろいろあるように見える店ということになる。大手チェーンの効率化に対抗して非効率化による楽しさを演出するのがヤオコーやハローデイ、ウェグマンズやホールフーズなのである。もちろん、ニューヨークのゼイバーズやガーデンオブエデンなども同じ手法で楽しさを演出している。

わざわざの店とは

 表7は主婦200人に聞き取り調査した結果だが、60%以上の主婦が複数の店を利用すると答えている。これは国内外どんな調査でもだいたい共通する結果である。つまり私の店は1店舗だけという人はほとんどいないということである。
 主婦は目的によって複数の店を使い分ける。これもまた原理原則であるから、それをクリアするのは容易ではないということにもなる。

 わが店に来てもらう理由。それをいかに多くつくるかがスーパーマーケットの永遠のテーマでもある。

ディスカウント

 安く売るということには実に大きな意味がある。経済活動の最優先が利害にあるからだ。そこには単純な損得が働く。ネット通販の隆盛にもそのことは大きく影響している。そこではユーザーのほとんどが出店者の商品価格を比較する。そしてそれをあっという間に知ることができる。
 顧客は価格満足という納得を手に入れるのである。そこには最低限の信用条件は存在するものの、必要以上のサービスは無用なのだ。店の掃除とか従業員の態度とか情緒的な感情は入り込むすきがない。ただ淡々と商品の価格優先の売買が進む。

 ディスカウントはどうだろう。もちろん、ここでいうのは業態としてのディスカウントストアではなく、絶対価格で見るディスカウントのことである。

 人にはそれぞれの価値観がある。まず、何が何でも価格というお客を考えてみよう。
 人はあることに満足すればほかのことを我慢するという特性がある。たとえばコストコ。コストコの一品単価はけして安くなく、むしろ高いという現実がある。そこでは牛乳を1本、魚を1匹などという買い物はできない。肉にしての野菜にしても加工食品にしても大容量である。買いたいものを10点も選べば簡単に3万円になる。ユニットプライスを見てもそう安くはない。普通にいえば買いにくい店だ。それでも来店客は引きも切らない。
 コストコの特徴は世界中で同じようなかたちを維持していることである。競合のウォルマートは国内外や業態でその売上が大きく違う。豊かな業態対応力といえばそれまでだが、ばらつきのなさという見方をすれば見事というほかはない。

 九州のディスカウンター、ルミエールはとにかく安く売りたいというのが社の方針だ。安く売るためには原価はもちろん、値入やそのほかの販売コストに徹底的にこだわる。
 絶対価格の安さは強力な顧客満足を得る。その一番が、価格が安ければそのほかのことにはこだわらないという価値意識である。
 もちろん、駐車場や品ぞろいという要求はあるが、最低限度の環境整備でもお客の不満はない。そこに求めるのはひたすら安さである。安ければお客は遠くからやって来て、たくさん買ってくれるのである。
 お店はひたすら、そのための努力を続けなければならない。価格が高くなる付加サービスは行ってはならないのである。それがお客のデマンドだからだ。価格によって販売量が増加すれば、さらに安く売ることができる。それが戦略なのである。安く売ることによって商圏は2倍に、1人あたりの買い上げ額も2倍ということになれば通常業態の4倍の売上を手にすることができる。経費率1ケタに抑えるにはこの価格効果を追求するしかない。
 価格はどんなところにも共通する普遍的な価値基準なのである。たとえ、高質店でもその条件から逃れることはできない。

(つづく)

<プロフィール>
101104_kanbe神戸 彲(かんべ・みずち)
1947年生まれ、宮崎県出身。74年寿屋入社、えじまや社長、ハロー専務などを経て、2003年ハローデイに入社。取締役、常務を経て、09年に同社を退社。10年1月に(株)ハイマートの顧問に就任し、同5月に代表取締役社長に就任。流通コンサルタント業「スーパーマーケットプランニング未来」の代表を経て、現在は流通アナリスト。

 
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