2024年11月17日( 日 )

小売業―かつてない激変期(14)

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 どんな業態でも立地の縛りから逃げることはできない。それは高質店も同じである。加えて、所得が高ければ高級食材を選択するかというとそうではない。結果として、価格の問題は避けて通れないということになる。

 表8はある高質店舗の売上数値である。販促日と販促日以外の差に注目してほしい。チラシ初日はそれ以外の日に比べて、50%を超える売上がある。このことは高質店の顧客にもそれなりの価格志向が存在するということである。日曜日は高質店がもつ商圏拡大効果が見て取れるが、通常日の商圏拡大は厳しいということができる。
 高質であるがゆえに、そのまま高粗利率につながれば問題ないのだが、そうはいかないところに高質店の難しさがある。
 一方、高質店の強みは全体的信頼感の高さだ。その信頼は品質レベル、売り場、人のサービスなど多岐にわたる。問題は値ごろを外れる商品の販売力だ。とくに高質店の場合は、松、竹、梅の商品づくりをする。通常のスーパーマーケットではせいぜい竹、梅の商品づくりである。それは普通のお客にとって、松はほとんど必要ないからである。当然売れ筋の多くは梅ということになる。

ホールフーズのハンバーガーとカットフルーツ

 ところが、高質店は松を用意することで、竹の商品を売る条件を整える。その効果は単価と粗利益率だ。単価としてはせいぜい一回の買上で数百円だが、それでも通常型に比べて20%前後の差がある。もう1つは商圏拡大と足下集客力の強さによる単位面積あたりの高さだ。それは通店の1.5倍~2倍になる。これが対極にあるディスカウントとの共通点だ。
 高質店の1gあたり単価の高い商品が生み出すロス、ディスカウントの低い値入による粗利率の低下は、この一定面積の売上の大きさがカバーする。この奇妙な共通点こそ、最終戦略の落とし所である。
食品は1gあたりの価格が0.1円違うことでその売上が大きく違ってくるという特徴がある。100gに直せば10円ということだ。だから数%の価格差が売上の量に大きく影響するのである。問題はそれを付加価値への代償として納得して負担するかどうかということになる。
 松竹梅の商品のなかでいかに松竹の商品に支出してもらえるかは、高質店がいかにサービスの質を高められるか、ディスカウントはいかに低価格を提供できるかが基本的なテーマということになる。目的地は同じ。道順が違う。それがわざわざの店が狙うところである。

何のために塊をつくるのか?

 いま、全国各地で地元の有力小売業が連携を模索する動きが見られる。規模のメリットによる将来への布石だが、最低限、年商5,000億の規模が必要というのが業界リーダーの考え方である。
 規模のメリットの最大のものは対応力である。小売業を襲うさまざまな環境変化にいかに対応するかは、企業存続のための重要なポイントであるが、いまとくに必要とされるのは何と言ってもスピードだ。
 環境の激変に際しては、地道な改善が間に合わないことが少なくない。競争のレベルが上がるほどスピードが求められるのはスポーツの世界だけではない。小売の世界でも遅いもの、遅れたものは淘汰されるのである。
 規模の拡大は常に有利とは限らない。規模が大きくなると往々にして動きが遅くなる。協業したお互いがそれぞれに遠慮して改革のスピードに乗れないという事例も少なくない。そうなると規模の塊はメリットではなく、デメリットを手にすることになる。そこで求められるのは強力なリーダーシップだ。それがあって組織は初めて改革が進み活性化する。
 数兆円という巨大な売上があってもそれに応じた利益が出るとは限らないのが現代の小売業だ。激変期にはスケールより問題への素早い対応力が求められる。
 “人の行く裏に道あり花の山”。相場の格言は何も相場の世界のことだけではない。いわゆるmake a differenceである。

(了)

<プロフィール>
101104_kanbe神戸 彲(かんべ・みずち)
1947年生まれ、宮崎県出身。74年寿屋入社、えじまや社長、ハロー専務などを経て、2003年ハローデイに入社。取締役、常務を経て、09年に同社を退社。10年1月に(株)ハイマートの顧問に就任し、同5月に代表取締役社長に就任。流通コンサルタント業「スーパーマーケットプランニング未来」の代表を経て、現在は流通アナリスト。

 
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