2024年11月25日( 月 )

久留米欠陥マンション裁判、2つの判例に見る「かぶり厚」問題(前)

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 福岡県久留米市の分譲マンション「新生マンション花畑西」の設計・施工の瑕疵をめぐる裁判は、既報の通り、被告3者のうちの設計事務所2社は、1社が裁判を欠席し、もう1社は技術的な反論ができずに、事実上、設計の瑕疵(構造計算の偽装)を認めたかたちとなっている。

 設計上の瑕疵が特定されたことから、裁判の焦点は、被告・鹿島建設による施工の瑕疵に移り、同マンションで、鹿島建設自身の調査でも確認されている数多い施工の瑕疵のうち「鉄筋に対するコンクリートのかぶり厚さ」に絞られている。

 「かぶり厚」は、建築基準法施行令の第79条に規定されている。同条では、鉄筋コンクリート造の柱・梁・壁・床などの部材において、コンクリート内部の鉄筋を、錆や火災の熱から保護し、鉄筋とコンクリートとの付着力を確保するために、最低限のコンクリートの厚みが定められている。

 建物の階数や耐火性能の定めによるが、同マンションの場合、柱・梁・耐力壁においては、3cm以上のかぶり厚が必要であり、設計図面にも明記されている。鹿島建設は、裁判において、「ひび割れや鉄筋が露出した箇所は補修済み」と主張しているが、かぶり厚が不足した状態は解消されておらず、補修したという箇所は、マンションの共用部分(共用廊下や階段など)とごく一部の専有部分にとどまっているのが現状である。

 この「かぶり厚」の問題について、大阪市の建築設計を手がけるM(匿名希望)から、同様の瑕疵に関する過去の判例など情報提供が寄せられた。

「かぶり厚」不足をめぐる2つの判例

 ――久留米の「新生マンション花畑西」の事例をどう見ていますか。

新生マンション花畑西

 M 私と同業者である仲盛昭二氏((協)建築構造調査機構代表)の意見には共感を持っており、興味深くデータ・マックスの記事を読んでいます。仲盛氏が指摘しているように、過去の建築確認は、審査をする行政の担当者が不勉強で経験も浅いため、形式的な審査になっていました。
 設計者は、諸規準に規定されている事項であっても、行政の審査で指摘されない事項の検討を省略していました。その理由は、検討を行う手間と建築コストの上昇を避けるためです。施工の現場においても、工事監理が不十分、完了検査も形式的であったため、先に述べたように、手抜き工事が横行していたのです。設計者も行政も施工業者も、遵法精神が欠如していたのだと、私は思っています。
鹿島建設の下請が地元の栗木工務店であったことに関する直近の記事を読みましたが、私が想像するに、金額的にも工期的にも、相当厳しい契約で下請工事を請けていたのではないでしょうか。鹿島建設も栗木工務店も、現場監督を常駐できていたのかということも疑問に思いますし、これだけの施工の瑕疵が判明したということは、現場のモラルや施工管理体制が不十分だったと考えざるを得ないと思います。

 ――数多い施工の瑕疵のうち、鉄筋の「かぶり厚」に焦点が絞られています。

 M 図面に示された「かぶり厚」を確保することは、施工の基本中の基本です。図面通りに施工できていなければ、不適切な施工となります。かぶり厚を確保するために「鉄筋スペーサー」と呼ばれるものを使いますので、よほど酷い施工をしない限り、「かぶり厚」は確保されます。久留米のマンションの事例は、ゼネコンの施工技術が信じられないほど低かったのだと思います。

 ――鹿島建設(被告)は、かぶり厚が不足していても直ちに危険ではないと反論しています。

 M 私が見たことのある過去の判例では、札幌地裁(2005年10月28日)の判例で、「建物が安全か否かではなく、施工が設計図書などに従っているか、法令などの定めを満たしているか否かによって判断すべき」という判断を示してします。この裁判は、「かぶり厚」の不足を含む賃貸マンションの施工不良について、建物所有者が建築業者および設計監理者などに損害賠償などを求めていましたが、一部を除く被告に、補修費用や代替建物の賃料相当損害金、慰謝料などの支払いが命じられました。
また、横浜地裁川崎支部(01年12月20日)の判例で、「かぶり厚さ不足は、本件建物の重大な欠陥というべきである」として、建築業者に、瑕疵担保責任および不法行為責任を認め、建物取り壊し、再築費用のほか、弁護士費用、一時移転費用、慰謝料などの支払いを命じています。

 ――鹿島建設は、「ひび割れや鉄筋が露出した箇所は補修済み」と主張しています。原告側のマンション住民は、補修した箇所は、マンションの共用部分(共用廊下や階段など)と、ごく一部の専有部分に限られていると反論しています。

 M 先ほど紹介した横浜地裁川崎支部の判例では、「鉄筋が露出していた箇所以外にも、かぶり厚さ不足が存在することが推認される」という判断が示されています。建物の一部に不具合があれば、建物全体に不具合がある可能性が高いということは、建築や法律の素人でも推測できることだと思います。

(つづく)
【聞き手・文:伊藤 鉄三郎】

 

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