米朝首脳会談に沈黙する北朝鮮、金正恩の「独断」で自滅?(前)
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米朝首脳会談をめぐって、北朝鮮が異様な沈黙を続けている。韓国の特使が平壌政権の使い走りのように、「金正恩の変心」「非核化の意思」を喧伝しているのと、極めて対照的だ。浮き足立つ韓国、沈黙する北朝鮮というべきか。
北朝鮮のメディアは3月19日現在、米朝首脳会談について何らの報道も行っていない。世界中に飛び交っているのは、金正恩と会談した韓国特使が伝えた「メッセージ」だけなのだ。4月の南北首脳会談、5月の米朝首脳会談という日程はあるものの、その内実は何ら決まっていない。年初からの南北融和ムードが一転して、米朝対立局面に逆戻りする可能性が少なくない。激動する朝鮮半島情勢
南北コリアをめぐる情勢は、今年になって激しく動いた。
まず金正恩が新年の辞で、平昌五輪への参加意思を明らかにした。このコラムで予測していた通り、これは北朝鮮による常套的な「和平攻勢」である。危機を煽った後に、擬似的な和平攻勢をかける戦術だ。日本の情報当局も予測していた事態であり、この「和平攻勢」には韓国の文在寅政権との事前合意があったと見た方が自然だ。
平昌冬期五輪に金正恩は、妹の金予正を送り込んだ。この「微笑作戦」がまんまと成功すると、次は腹心の金英哲をソウルに送り込んで「本気度」をアピールした。朝鮮労働党統一戦線部長は、北の対南戦略の責任者である。ソウル市内の宿舎に3日間陣取った彼は、韓国大統領府の鄭義溶・国家安全室長らと実務協議を重ねた。この時に、今後の南北対話、米朝対話をめぐる方向性についての合意が形成されたものと見られる。
ここまでが第一段階だ。基本的に北の主導による展開であり、韓国政府は事実上、北の提案を丸呑みに近いかたちで受け入れた。金正恩の真意は
第二段階が、金義溶ら韓国特使の平壌訪問だ。すでに南北首脳会談の開催は事実上合意しており、韓国特使の訪朝によって、その合意内容を公表する次元まで進むと思われていた。ところが、北の対応は予想を上回るかたちで顕在化した。北朝鮮には「非核化の意思がある」と、ソウルに戻った韓国特使は明らかにしたのである。金正恩の真意をめぐって、疑心暗鬼のさまざまな観測が乱れ飛んだ。ここまでが第二段階だ。
韓国の特使は、さらにワシントンに飛んだ。トランプ米大統領に面談した韓国特使は、金正恩から「米朝首脳会談の開催提案」メッセージを伝えた。南北首脳会談に続く米朝首脳会談の提案である。あくまでも北朝鮮主導のステップであり、韓国特使は北の使い走りのような役割をはたした。
ここで従来の外交では考えられない米国側の対応があった。北朝鮮に「独裁者」があれば、米国には「暴君」の大統領がいた。トランプはただちに米朝首脳会談をしようと表明したのだ。これには韓国特使も面食らうしかない。「4月に南北首脳会談をした後、5月に米朝首脳会談を」と、トランプの猛スピードな対応を修正した。
ここまでが第3段階であり、現在はこの段階で膠着状況にあるのが実態だ。(つづく)
<プロフィール>
下川 正晴(しもかわ・まさはる)
1949年鹿児島県生まれ。毎日新聞ソウル、バンコク支局長、論説委員、韓国外国語大学客員教授、大分県立芸術文化短大教授(マスメディア、現代韓国論)を歴任。現在、著述業(コリア、台湾、近現代日本史、映画など)。最新作は「忘却の引揚げ史〜泉靖一と二日市保養所」(弦書房、2017)。関連記事
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